見出し画像

【絵本レビュー】 『100まんびきのねこ』

作者/絵:ワンダ・ガアグ
訳:いしいももこ
出版社:福音館書店
発行日:1961年1月

『100まんびきのねこ』のあらすじ:

年をとったおじいさんとおばあさんは、寂しいのでねこを飼うことに決めました。ねこを探しに出かけたおじいさんは、たくさんのねこであふれた丘にたどりつきます。しろいねこ、しろくろのねこ、はいいろのねこ、どのねこもかわいく見え、おじいさんはみんなを連れてうちに帰ってきます。でも、そんなにたくさんのねこは飼えません。そこで、おじいさんとおばあさんは、どのねこを家に置くかをねこたちに決めさせようとしますが……。

『100まんびきのねこ』を読んだ感想:

猫、大好きです。猫カフェに行ってみたいけれど、一度入ったら出てこられなそうな気がします。100万匹とは言わないけれど、20匹くらいのねこに囲まれたいなとは常に思っています。なので、この絵本は内容も確認せずに手に取りました。でもなかなかシュールで、かつ意味深いものがあります。

就職活動にことごとく失敗した末大学を出た後、私はある業界新聞でパートをしていました。仕事自体は簡単だったので、私は隣の席のカメラマンと仲良くなり、時々商品撮影のアシスタントもするようになりました。そこで写真に目覚めたのですが、ある日そのカメラマンが「練習あるのみ」と言って箱いっぱいの白黒フィルムをくれたのです。それから私は週末ごとに写真を撮る散歩を始めました。お勧め散歩ルートを紹介する雑誌を買って行きたい場所を見つけるのが、平日の楽しみともなりました。そして日曜はバッグに大学の卒業祝いとして母に買ってもらったハーフカメラを入れて、一日中街を歩き回っていました。

カメラマンからのアドバイスは、「とにかく好きなものを色々なアングルから撮りまくる」でした。好きなものといえば、ねこです。私は猫の多い散歩道を探し、日がな一日猫を追い回していました。「ねこに合う風景はやっぱり下町!」と勝手に決めていたので、当時は日暮里、浅草、北千住あたりまで足を伸ばしました。特に好きだったのは谷中霊園だったのですが、今考えるとよくもまあパチパチとお墓の中で写真を撮っていたなあ、と思います。でも一度も怪しい影などは入っていなかったので、猫が追い払っていてくれたのかもしれませんね(と勝手に解釈)。

その後しばらくして私は日本を出たのですが、私の猫熱は冷めませんでした。ある年の夏、友人を訪ねてメキシコに行ったのですが、メキシコの町並みに猫が合いすぎるのです!市場のねこ、可愛い窓のところにいるねこ、道で売っているタコスの屋台とねこ、ドクロの飾ってある教会とねこ。私はリュックにカメラを入れてメキシコの街を歩きました。スペイン語も満足にできない日本人が、リュックにカメラを入れて道をふらふら歩くなんてあまりにもナイーブな話なのですが、あまりにも無防備なのが逆に怪しかったらしく襲われることはありませんでした。それどころか、道に這いつくばって、トラックの下にいる猫の写真を撮っている私を、地元の人たちはとても怪しそうに見ていました。撮っているとよく、「グリンゴ(アメリカ人)」とか「ロカ(クレイジー)」とかいう言葉をよく耳にしたので、逆に怖かったのかもしれませんね。

そんな風にして猫を追いかけていた時、ある路地に入って行ったんです。先が行き止まりとは知らず私は道を進んで行ったのですが、ある家の前でおじいさんがどでかい鉈を研いでいました。シャーリ、シャーリと研いでいたおじさんは顔を上げて私に何か言いましたが、私にはわかりません。それでそのまま進んで行ったのですが、その先には駐車場だけがあり行き止まりでした。猫も見えなくなってしまったので元来た道を戻ってくると、さっきのおじいさんはまだ鉈を研いでいます。おじいさんはまた何か言いました。多分「行き止まりだったろう」と言っているのだろうと推測し、軽く頷きました。するとおじいさんは手を止めてポツポツ何か話し始めるのです。私はさっぱりわかりませんでしたが、神妙な顔をして聞いていました。後ろの家の中から犬たちの吠える声が聞こえます。おじいさんは私がそちらを見ているのに気がついて、「ペロス(犬)」と言いました。それから家の中にジュースがあるから入っらどうだ、というようなことを言ったのです。あまりにもウブな私でしたが、鉈+犬+知らないおじいさん+誰もいない道の組み合わせはさすがにまずい気がして、私はありがたく辞退しました。おじいさんはそれ以上進めては来なかったので、意外と本当に招待してくれていたのかもしれませんが、今のようなスマートフォンの時代でもないのに、メキシコの片田舎で誘拐もシャレにならないので、入らなかったのはいい判断だったと思っています。

さて、おじいさんはシャーリシャーリと鉈を研ぎ始め、今度はその家の横を流れている川を指さしました。水はちょろちょろとしか流れていません。「水がないだろう」と言います。「ないね」というと、その川が昔はよく氾濫したというような話をしてくれました。全て私の推測ですが、おじいさんのジェスチャーから、おそらくそういう話なのだと理解しました。「昔は大変だったさ」とおじいさんは遠い目をしながら話してくれましたが、私は彼が研ぎ続ける鉈が気になって仕方ありません。そろそろそこを離れたくなってきました。「帰してくれるだろうか」という嫌な考えが頭をよぎりましたが、急いで払って「じゃあ帰るね。ありがとう」というと、おじいさんはただ頷いて、まるで私なんて最初からいなかったかのように、また鉈を研ぎ始めました。私は歩き始めたのですが、振り返ったらおじいさんは消えているような気がしましたが、おじいさんはちゃんといましたよ。

猫を追っていると、こんな風に色々と面白い人にも会えるんですよね。


『100まんびきのねこ』の作者紹介:

ワンダ・ガアグ (Wanda Gág)
1893年、ミネソタ州ニューアルムで生まれた。芸術家、作家、翻訳家、イラストレーターであり、ニューベリー賞、ルイス・キャロル・シェルフ賞(英語版)を受賞した代表作の児童絵本「Millions of Cats(英語版)」(100まんびきのねこ)は出版され続けているアメリカ合衆国の絵本で最も古い。ABC Bunnyもニューベリー賞を、「Snow White and the Seven Dwarfs」(しらゆきひめと七人の小人たち)や「Nothing at All」でコールデコット賞を受賞した。1940年に、自身の日記(1908年から1917年まで)を抜粋、編集した上で出版した「Growing Pains」(邦題:ワンダ・ガアグ 若き日の痛みと輝き 「100まんびきのねこ」の作者が残した日記)は高い評価を受けた。1946年逝去。


ワンダ・ガアグさんの他の作品


サポートしていただけるととても嬉しいです。いただいたサポートは、絵本を始めとする、海外に住む子供たちの日本語習得のための活動に利用させていただきます。