
【絵本レビュー】 『バルバルさん』
作者:乾栄里子
絵:西村敏雄
出版社:福音館書店
発行日:2008年3月
『バルバルさん』のあらすじ:
バルバルさんは、町の床屋さん。毎日楽しく働いていますが、ある日、ライオンが、たてがみをきれいにしてほしいとやってきます。次にワニが毛をはやしてほしいと、ヒツジがプードルみたいにしてほしいと、次々に動物のお客さんがやってきました。初めはびっくりしていたバルバルさんも、だんだん楽しくなって注文にこたえていきます。夕方、店を閉めようとすると、看板にいたずら書きが……。
『バルバルさん』を読んだ感想:
大人になると毎日が大体決まっていて、変化に弱くなるような気がします。いつもと違うと対応に困ってしまうのです。子供の時はどんな変化にも柔軟でいられて、さらに楽しむことさえできたのに、いつから私はこんなにつまらない人間になってしまったのでしょう。
小学生の時の私は、毎日違う道を通って家へ帰っていました。土曜日(当時は土曜日も授業がありました)で時間のある時は友達を誘って、普段乗るバスには乗らず歩いて家まで帰りました。それも、もちろんスマホなんてありませんから、「大体あっちの方」と目安をつけて帰るのです。だって、いつもの道をいつも通りに帰るなんてつまらないじゃないですか。
成長するにつれ「合理的」なことがいいことみたいに考え始めたんでしょうね。帰る道も最短距離で、早く家に着くことが目的になりました。家に帰ってからすることもたくさんあるからです。帰る道すがらを楽しむ余裕さえなくなってしまいましたが、今では余裕どころかすっかり楽しむ必要性さえ見出せなくなっているように感じます。
もう一ついいなと思ったのは、バルバルさんの自信です。どんなお客さんが来ても対応できるのは、自分のスキルに自信があるからなのだろうなと思います。
初めて書道のパフォーマンスをすることになった時、あがり症だったことはもちろんですが、条幅以上の紙に書くこと、壁に貼ってある紙に書くこと、音楽に合わせること、着物を着ることなどなど何もかもが初めてで、心配で仕方がありませんでした。ちょうどその時帰国して書道の先生に会う機会があったので、先生に相談したのです。すると先生はとても嬉しそうに笑うと、
「そりゃあ楽しみだ。コンチキショーって書けばいいんです。あとはいつも通り。」と言うのです。
コンチキショーって、先生。。。と私はからかわれているような気もしましたが、先生はさっさとお茶を入れる支度をしています。このアドバイスはそれ以降20年近く経った今でも役立っています。ワークショップの前、パフォーマンスの前に「コンチクショーでいいんだ。あとは書くだけ」と自分に言い聞かせてみんなの前に立ちます。あとは、バルバルさんのように楽しむだけです。
さてと、今日はいつもとちょっと違うことしてみるとするか。
『バルバルさん』の作者紹介:
乾栄里子
1964年東京都生まれ。 東京造形大学デザイン科卒業。大学卒業後インドへ渡り、バナスタリ大学でテキスタイルを学ぶ。床屋さんと動物たちとのやりとりをユーモラスに描いた絵本『バルバルさん』(絵・西村敏雄 福音館書店)で絵本作家デビュー。東京都在住。
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