【絵本レビュー】 『むらをすくったかえる』
作者:サトシン
絵:塚本やすし
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発行日:2013年4月
『むらをすくったかえる』のあらすじ:
日照りが続き大かんばつに襲われようとしている村を、体を張って見事に救ったかえる。大恩人であるかえるは、村人にとってヒーローだったのか。
『むらをすくったかえる』を読んだ感想:
人間はね、自分が困らない程度内で、なるべく人に親切がしてみたいものだ。ー夏目漱石ー
ちょうどこんな名言を読んだ直後でした。かえるが自分を犠牲にしてまで雨を降らそうとしたのはなぜなのでしょう。一度は干ばつで村が絶えてしまうことに「ざまあみろだ!」とさえ思ったのに。村人は誰もかえるに近づいて来なかったのに。それなのに、彼らを助けようとしたのはどうしてなのでしょう。私の頭の中は、「なぜ」でいっぱいです。
かえるはいつも無表情で、彼が一体どんな気持ちなのかうかがい知ることはできません。村人の気持ちを想像してみると、後悔の念でいっぱいなのではないかと思います。かえるが自分たちを助けようとしていることに気がついた時、かえるはもう力を使い果たしかけていました。
「がんばれ!」
「がんばれ!」
だれもが こころの なかで、かえるに せいえんを おくっていた。
そんな重大なことに気づいたのに、命を削っているかえるを目の前にしているのに、村人は声を出して声援を送ることができていないのです。今までの自分たちの行動を恥ずかしく思ったからでしょうか。確かに簡単なことではありません。かえるの応援をするのが、私一人かもしれません。かえるが雨を降らせられなかったら、かえるだけでなく私も村を追い出されてしまうかもしれません。大きなリスクですね。
村を救ったかえるはヒーローになったかもしれません。でも死んでしまった今、村人が称えてくれたことがどんな役に立つのでしょう。かえるは村人が仲良くしてくれることを願っていたのではないのでしょうか。
かえるは みえなくなった めで まわりを みまわした。
そして、にっこり わらうと、
ひときわ おおきなこえで「ゲコゲコゲコ」と うたった。
もしかしたら、かえるは欲しかったものを手に入れたのかもしれません。最後の最後になってしまったけれど。
それでも思うのです。ゲームオーバーになってしまっては仕方がないんじゃないかと。「自分が困らない程度で」これが大切でもあると思うのです。誰かが好きだから、それが正しいことだから自分の全てを与えてしまいがちなのですが、その後に来る脱力感や裏切られた感というのも辛いものですよね。
私が仲のいい友達に言うことがあります。
「あなたのこと大切だからどこまでも一緒に行くけどね、もし崖から飛び降りるのならば、私はその縁までは行ってあげるけど、一緒には飛ばないよ。」
友達は笑うけれど、これが私の本当の気持ちです。もちろん飛び降りてしまった友達のことはいつまでも忘れないでしょう。でも私と他の人は一体ではないと私は思うのです。
それだから、私はこのかえるに聞きたいです。
「どうして命を犠牲にしようと思ったの?」と。
『むらをすくったかえる』の作者紹介:
サトシン
1962年、新潟県生まれ。広告制作プロダクション勤務、専業主夫、フリーのコピーライターを経て、絵本作家に。作家活動の傍ら、新しいコミュニケーション遊び「おてて絵本」を発案、普及活動に力を入れている。現在、大垣女子短期大学客員教授を務める。 『うんこ!』(文溪堂)で、第1回リブロ絵本大賞、第20回けんぶち絵本の里びばからす賞、第3回MOE絵本屋さん大賞受賞、第4回子どもの絵本大賞 in 九州、第5回書店員が選ぶ絵本大賞受賞。 絵本の作品は、他に、『ヤカンのおかんとフトンのおとん』(佼成出版社)、『きみのきもち』、『とこやにいったライオン』(共に教育画劇)『おれたちはパンダじゃない』(アリス館)『せきとりしりとり』(文溪堂)など。その他著書として『おてて絵本入門』(小学館)など。