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【絵本レビュー】 『きつねのホイティ』

作者/絵:シビル・ウェッタシンハ
訳:まつおかきょうこ
出版社:福音館書店
発行日:1994年3月

『きつねのホイティ』のあらすじ:


ごちそうが食べたい一心で、人間に変装してやってきたきつねと、それを知っていながら、だまされたふりをする村人たちとのやりとりをユーモラスに描いたスリランカの絵本。

『きつねのホイティ』を読んだ感想:

スリランカの絵本なんて初めて、という単純な理由で入手しましたが、カラフルな絵もさることながら、お話も面白いです。特にいいなと思ったのは、みんながケラケラ笑っていることです。どっちが騙して、どっちが騙されているのかもわからなくなり、最後の仕返しも痛めつけるのではなく、「うんとからかって」やることなのです。

イタズラといえば、私が小学校中学年くらいの時、一人で留守番をしているとどこからか口笛が聞こえてきました。なんと言う曲かわかりませんが、とても素敵なメロディでした。上手だなあと思いましたが、その時は特に気に留めずやり過ごしてしまいました。ところがそれからしばらくすると、また聞こえてきたのです。さっきと同じ曲。同じ人かなと思って窓を開けて見ましたが、うちの前を通る人はいません。台所の方から聞こえたから、もしかしたら裏の道を通っている人かもしれない、と思っているうちに父も帰ってきたので私は二階の自室に行き、口笛のことは忘れてしまいました。

それからちょっと後台所に何かを取りに降りた時です、またあの口笛が聞こえてきました。リビングのソファに座っていた父に「ほらほら、聞こえる?」と言うと、父は新聞から頭を上げて「ほう、うまいなあ」と言いました。私は今度は台所の窓を開けて、口笛がどこから聞こえてくるのか探し出そうとしましたが、また失敗に終わりました。そのうち母も帰ってきて、夕飯の支度を手伝っていると、またです!でも料理をしていた母は聞こえなかったようなので、私はあのメロディを口笛で吹いてみせました。この日もう何回も聞いていた私は、すっかりメロディを覚えていたのです。母は特に関心もなさそうに「へえ」と言って料理を作り続けます。私は父のところに行って、「あの口笛の人がまた来たよ!」と報告しました。「どこを歩いてるんだろう」と言いながら今度は玄関から出て道を見回しましたが、誰もいません。どこからくるのかわからずがっかりして台所に戻り母の手伝いをしていると、なんとまたあの曲が!振り向くと父がニヤニヤしながら立っています。手には陶器でできた男の子の人形が。その人形はいつもピアノの上に置いてあったものです。ただの置物だと思っていたのに、今は首を左右に動かしていて、昼間から私を悩ませていたあの曲が流れて来ます。よく見ると男の子の口は尖っていて、まるで口笛を吹いているようです。

父は私の顔を見ながら今度はゲラゲラと笑っています。ずっと音の出所を知っていながら黙っていたわけです。家中をぐるぐる歩き回る私を見て、その午後中笑いをこらえていたのでしょう。母は「へえ、よくできてるねえ」とやっぱり無関心ですが、父は腹を抱えて笑っています。いっぱいやられました。私は実によくできた人形に感心するやら、笑われてくやしいやらで、一体どんな顔をしたらいいのか困ってしまいました。

その日以来人形が口笛を吹くことはありませんでした。一日に何回も鳴るので、煩わしかったのかもしれないし、もしかしたら父もその日に音が出ることに気がついたのかもしれませんね。私はその仕返しをすることはありませんでしたが、今も時々その口笛の音を思い出して一人で笑っています。


『きつねのホイティ』の作者紹介:

シビル・ウェッタシンハ(Sybil Wettasinghe)
1928年スリランカに生まれる。独学で絵を学び、17歳から地元の新聞社で働く。主に子ども向けの記事をイラスト入りで執筆し、20歳のときに初めての絵本を出版。その後ともつぎつぎに絵本を発表し、日本でも『きつねのホイティ』『ねこのくにのおきゃくさま』(福音館書店)が紹介されている。2012年、アジアの安定や発展に貢献した人に贈られる日経アジア賞を受賞。

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