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【絵本レビュー】 『大根はエライ』

作者/絵:久住昌之
出版社:福音館書店
発行日:2018年1月

『大根はエライ』のあらすじ:


さまざまな料理で使われている大根。生でも煮てもおいしい。薬味として主菜の味を引き立てたり、いっしょに煮たものの味を引き立てたり。人気も実力もあるのに、どこか奥ゆかしい。メインの食材を引き立てる脇役に徹している感じがします。日本でいちばん食べられている野菜なのに、なぜでしょう?

『大根はエライ』を読んだ感想:

大根についてこんなに熱く語ったものを私は今まで見たことがありません。

子供の頃、大根といえば、煮られてブヨブヨになった茶色のもの。父が作ったものは大抵しょっぱすぎて、スポンジのような変な食感でした。おまけにお弁当に入れるもんだから水分がご飯にも移り、ご飯も茶色、さらにお弁当包みにも染み込んで、バッグ全体も煮物臭くなっています。私は授業中、すでに臭いを発しているお弁当の入ったバッグをうらめしく見つめながら、湯鬱な気分になったものです。ラッキーな日は、そんな大根の煮物に加え、ブリの照り焼きがドカリと白米の上に乗せられていて、臭いには生臭さも上乗せされます。学校への道すがら猫が列を作ってついてきていても、全く不思議ではないくらいの強烈さだったことは、今でも鮮明に覚えています。

というわけで、私の大根に対する思いはあまりいいものではありませんでした。ある日小学校で仲良しのKちゃんが泊まりに来るまでは。お客のめっぽう少ない我が家でしたが、Kちゃんだけは特別でした。私も時々泊まりに行ったし、Kちゃんも遊びに来たり泊まったりすることがありました。商売をしていて家族旅行に行かれないKちゃんが、私たちと一緒に夏休みを海で過ごしたこともありました。

そんなKちゃんがうちに泊まりに来た日のことでした。その日は母が休みの日で夕ご飯を作ったのですが、テーブルの真ん中には誇り高く大根の煮物が居座っていました。私は「せっかくのお客さんなのにこんなものを出すなんて。。。」と、冷たい視線を大根に投げかけました。ところが、Kちゃんは席に着くと、受け皿に入れられた大根をひとかじり。「おいしい!」というではありませんか。私は信じられずKちゃんを見つめました。彼女はすでに二つ目の大根に手を伸ばしています。またひとつ、またひとつと、結局Kちゃんは食卓に出ていた分をみんな食べてしまいました。父はとても嬉しそうに笑ってKちゃんに大根をよそってあげています。母もびっくりしてケラケラ笑っていますが、まんざらでもなさそうで台所からさらに大根を持って来ます。Kちゃんがあまりにも美味しそうに食べるので、私も食べて見たくなりました。一つとって試してみます。ぐにゃぐにゃしていません。外は薄い醤油の色だけど、中は大根の白さがあります。口に入れると食感もしっかりしていて、早い話が「うまい」のです。それから私とKちゃんは競うように大根の煮物を食べました。

ここ数年ベルリンでも大根が割と簡単に手に入るようになり、私も時々煮るのですが、息子は見向きもしません。息子にもKちゃんみたいな友達ができたら食べるのかな。

『大根はエライ』の作者紹介:

久住昌之
1958(昭和33)年東京生れ。美学校で赤瀬川原平に師事する。1981年、泉(現・和泉)晴紀と組んだ「泉昌之」として、「ガロ」にてデビュー。1999(平成11)年には実弟・久住卓也とのユニット「Q.B.B.」による『中学生日記』で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞する。泉昌之『かっこいいスキヤキ』『豪快さんだっ! 』「食の軍師」シリーズ、谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』、水沢悦子との共著「花のズボラ飯」シリーズなど、マンガ原作者として話題作を次々と発表する一方、エッセイストとしても活躍。『野武士のグルメ』『孤独の中華そば「江ぐち」』『昼のセント酒』『ひとり家飲み通い呑み』『ちゃっかり温泉』『久住昌之のこんどは山かい!? 関東編』『野武士、西へ 二年間の散歩』など多数の著書がある。

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