【絵本レビュー】 『かんがえるカエルくん』
作者/絵:いわむらかずお
出版社:福音館書店
発行日:1996年4月
『かんがえるカエルくん』のあらすじ:
カエルくんは考えます。
「シジミの顔はどこにある?」
「ミミズさんの顔はどこ?」
「空って、どこから空なの?」
「ぼくはぼくだけど、ネズミくんもぼくなんだ?」
ネズミくんといっしょに、カエルくんは考えます。
普段はあたりまえだと思っていることも、考え出すと深いのです。
『かんがえるカエルくん』を読んだ感想:
「誰もが考えているわけではない」
そんなことを言っていた心理学者がいました。
「今考えてる」とか「考えすぎ」なんて言葉をよく聞くので、考えることは普通のことだと思っていたので、初めてそんなことを聞いたときは少し驚きました。みんながみんな考えているわけでないのなら、考えていない人の頭の中では何が起きているのでしょう。
ネズミくんは。。。ボクがいるから。。。きみなんだね
ネズミくんが。。。ネズミくんだけなら。。。きみにはなれないね
カエルくんは気がつきます。自分とは違う別の存在に。
自分以外にも人は存在するし、世界も存在することはわかっているのに、それなのに私たちは「私」に固執してしまいがちです。
息子が生まれた時言われました。
「赤ちゃんは自分とママの存在が同じなの。自分はママで、ママは自分。一体なのよ。」
そんなバカなと思いましたが、この小さな存在と暮らし始めてみると、確かにそうでした。息子が寝るのを待つ私と私が寝るのを待つ息子、そして癇癪を起こしてぐずっているのは息子なのか私なのか、彼が私で私が彼。。。私は私であって私でないような、そんな不思議な生活が始まりました。
今五歳となった彼を見ていると、やっと私と違う存在になったんだという気がします。言葉を変えれば、彼は一歩親離れをしたということなんでしょう。繋ぐ手はまだ小さいけれど、これだってすぐに大きくなってもう私の手の中には収まらなくなるのでしょう。ああ、もしかしたら自分と違う存在に気がついたのは、私なのかもしれませんね。
この絵本は、子供のための哲学の本と言ってもいいかもしれません。私は哲学が苦手で、大学の試験でもなんとかクリアくらいの成績でしたし、少しでも役立てばと思って買った『ソフィーの世界』も開くたびに寝てしまって、第一章を終わるのになんと十年もかかった非哲学者でした。
でもきっと子供の頃から考えることを習慣にしていたら、きっと色々なことについて自分で考えられる大人になれますよね。
先日の自分探しの旅のセッションの後で、参加者の一人がメッセージをくださいました。
風の子さんが、あえてもう一歩踏み込んだ質問を投げかけるなあと感じていたんです。
日本人的感覚だと、空気で理解してよとか、言わなくても分かるでしょ、ってなる場面が多いんです。
KYと思われるかもしれませんが、あえて「なぜ」と聞かせていただきます。口に出していうことで気づくことが多いと思うからです。頭の中で自分だけで処理しているときはとても理にかなっていると思っていることでも、誰かに聞いてもらうことでまた違って聞こえるし、見え方も変わってくるんです。不思議ですね。
カエルくんにネズミくんがいるように、私たちには「あなた」がいます。自分だけでない他の存在、とても大切だなと思った一冊でした。
『かんがえるカエルくん』の作者紹介:
いわむらかずお
1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひきのシリーズ」、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの?To See My Friend!』(童心社/アメリカ、ペアレンツチョイス賞)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」シリーズ、「ゆうひの丘のなかま」シリーズ(理論社)などがある。98年栃木県馬頭町(現・那珂川町)に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、絵本・自然・こどもをテーマに活動を続けている。栃木県益子町在住。