【絵本レビュー】 『ことばコレクター』
作者/絵:ピーター・レイノルズ
訳:中川千尋
出版社:ほるぷ出版
発行日:2022年5月
『ことばコレクター』のあらすじ:
ジェロームが集めているのは、石でもカードでもなくて、「ことば」でした。耳に飛びこんでくることば、心ぞうがどきんとすることば、声に出すと楽しいことば。たくさん集めてスクラップしていたら、ある日…すってんころりん! 転んで全部、ぐちゃぐちゃになってしまったのです。
『ことばコレクター』を読んだ感想:
皆さんは言葉にどれくらい重きを置いていますか?
日本には「言霊」という考え方があって、発された言葉をとても大切にするけれど、言葉の自身の持つ力にあまり頼っていないなと、この絵本を読んで感じました。と同時に、この世の中には本当にたくさんの言葉があって、意味がわからなくてもなんだか心に響いてくるのです。あなたの好きな言葉はなんですか。
私が最初にスペイン語に触れた時、とても良くしてくれた友達がいました。彼女は翻訳を職業とする人でしたが、言葉をとても大切にする人でもありました。スペイン語を習い始めの私に、読みやすいからと『二十の愛の詩と一つの絶望の歌』という詩集の原語版(スペイン語)をプレゼントしてくれました。彼女に言われたのは、読んでいて気に入った言葉をメモしてみるといいよというものでした。それからの私は詩集と小さなノートをどこへいく時も持っていきました。
Zumbar (スンバル/ブンブンいう虫の羽音)、voz (ボス/声)、Mariposa (マリポサ/ちょうちょ)、Sueño (スエニョ/夢)、Alma (アルマ/魂)などなど、私は言葉を集めに集めました。
詩集ですから一ページ読むのに時間はかかりません。小説のように難しい言い回しも少ないですから、いちいち辞書を引くという面倒くささもありません。私のベーシックなスペイン語でもさらりと読めてしまったので、スペイン語の壁が急に低くなったような気がして、とても楽しかったのを覚えています。
日本語にもたくさん美しい言葉があります。たくさんあるのに私たちは黙りがちで、本当に思っていることを口に出していないように思います。
何年も前シドニーに住んでいた時のハウスメイトが、私の一時帰国に一緒について来たことがありました。日本好きの彼女は、うまくすれば日本人のBFができるかもなんて思っていたようです。でも、私の幼馴染たちとの飲み会で、彼女の夢はあっさり壊れてしまいました。
当時まだ幼稚園就園前の子供がいた友人の一人は、旦那さんが「大丈夫、楽しんでおいで」と言ったのにも関わらず、子供が泣いて困っていると三十分毎に電話をしてきた上、結局家に帰ってしまったことにオーストラリア人の彼女はまず気付きました。
その後彼女は男性陣に質問を始めました。
「家に帰ってまず奥さんに何をする?」ー「カバンを渡す」
「お花とか買って帰ったりする?」ー「なんで?」
「大好きだよとか言う?」ー「まさか〜(赤い顔)」
「じゃあ奥さんはどうやって愛されてるってわかるの?」ー「だって毎日家に帰るもの!」
オーストラリア人の彼女は私を絶望的な目で見つめました。そしてぼそっと「日本人男性無理」と言いました。彼女の夢はあっさり打ち砕かれてしまったようです。
もう十年以上も前の話ですから、最近の日本人男性ももう少しロマンチックなのかも知れません。でも女性だってロマンチックな言葉を旦那さんやパートナーにかけてあげる必要がありますよね。美味しいお弁当を作る、旦那さんが帰ってくるタイミングでお風呂が沸いている、脱ぎ散らかした服が綺麗にハンガーにかけてある。そんな風に行動で愛情を表すことももちろん素敵ですが、ちょっとした褒め言葉や「大好き」の一言が相手にとってどれだけの機動力になるか、実際に目にしないとわかりませんが、試してみる価値はあると思いますよ。
もちろん言われなくたってわかります。滅多に言われない方が言葉に重みがあるのかも知れません。でも言われた時に心の奥で起きるくすぐったい気持ちは、言葉として発せられない限りは起きないのです。相手が感謝しているのはわかっていてもやっぱり「ありがとう」という言葉として聞きたいですよね。言葉って本当にすごい力があるんです。
あなたは今日、どんな言葉を相手に伝えたいですか。
『ことばコレクター』の作者紹介:
ピーター・レイノルズ
1961年カナダ・トロント生まれの絵本作家、イラストレーター。『てん』(あすなろ書房)、イラストを担当した『ジュディ・モード』シリーズ(小峰書店)『ちいさなあなたへ』『っぽい』(共に主婦の友社)など、作品は多数。米国マサチューセッツ州在住。