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【絵本レビュー】 『アベコベさん』
作者:フランセスカ・サイモン
絵:ケレン・ラドロー
訳:青山南
出版社:文化出版局
発行日:1997年9月
『アベコベさん』のあらすじ:
アベコベさん一家は、きまって真夜中に起き、パジャマに着替えて夕食のため2階へと上がります? すべてがさかさまなアベコベさん一家。世の中には、いろんな人がいるんですね。
『アベコベさん』を読んだ感想:
四歳児にも「なんだこのめちゃくちゃさは」と笑わせるこの絵本なのですが、ちょっと待ってください。「ちゃんとしてない」って観念は、一体どこから来ているのでしょう。
靴が左右反対なら変、ボタンが掛け違えていたら変、Tシャツの前と後ろが反対だと変、パジャマのまま幼稚園に行ったら変。
たった四年しか生きていないのに「こうあるべき」という観念を植え付けてしまったようです。それでも私たち大人の基準からすれば、変だと思うことがたくさんあるのです。
でもこの「大人の基準」だって怪しいものです。日本では普通だったことが、海外に行ったら全くアベコベということも多くあります。役所の手続きが全然はかどらなかったり、郵便物がつかないことが普通だったり、会おうと言っていた本人が他の約束を入れていたり、などなど「一体どうなっているんだああ」と叫びたくなるようなことが起きます。
そんな時頭に浮かぶのは「これってこうあるべきでしょ」なのですが、この「べき」がなかなか厄介なヤツなのではないかと、何度もの失望の後に気づいたのです。
スーパーの店員さんは笑顔で丁寧であるべき。郵便局が混んでいるんだから、職員さん全員で対応すべき。借りた本は返すべき。
確かに今までの私の生活環境の中でこういったことは普通に起きていたけれど、別な国、いや、別な街に行ったら基準は全く別なのではないでしょうか。基準を決めているのは、私自身なのです。
スペインに住んでいた時、私は毎日この「べき」との葛藤で、スペイン人との日々の生活が嫌になっていました。有言実行と教えられて育った私は、スペイン人は飽きっぽく、無責任な嘘つきというレッテルを張るようになり、毎日がイライラともどかしさの連続でした。誰も信用できない気がしていました。仲良くなったスペイン人の友達に話すと、なんと彼らも同感なのです。ではなぜイライラせずに過ごしていられるのでしょう。
「相手が言ったことじゃなくて、していることを観察しなさい」
こう教えられました。口ではこちらの都合に合わせて言うかもしれないけれど、その人がどのような行動をとるか観察していれば、その人の次のステップがわかる。だから先に話したことが起きるか起きないか大体予測できる、というのが理論なのだそうです。
なるほど。所変われば品変わる、とはまさにこのことですね。このようなトリックを教えてはもらいましたが、結局私はこのアベコベ世界に疲れてしまってドイツへやってきました。スペインと比べたら色々な面で物事がスムーズに運ばれるような気がしますが、驚いたことにドイツに長く住む日本人はドイツ人の非効率的でぶっきらぼうなところにイライラしていると言うのです。
スーパーの店員さんはお客さんより先に挨拶すべき。役所の人は英語が話せるべき。家賃はもっと安くあるべき。物を渡す時には投げないで手渡しすべき。
おやおやここでも「べき」が占拠していますね。でも「べき」を作っているのは私自身で、イライラさせているのも私なのです。アベコベさんのお母さんは娘に言います。
いろんな ひとがいるのよ
十人十色。人の数だけ基準があるのだったら、自分の基準にしがみついて理想の社会を願っていることはあまり意味がないのかもしれませんね。
『アベコベさん』の作者紹介:
フランセスカ・サイモン(Francesca Simon)
1955年、米国ミズーリ州に生まれる。作家。ホリド・ヘンリーシリーズが特に有名で、現在在住している英国でもっとも売れている児童作家の一人。
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