【絵本レビュー】 『ちいさなねこ』
作者:石井桃子
絵:横内襄
出版社:福音館書店
発行日:1967年1月
『ちいさなねこ』のあらすじ:
小さな子猫がお母さん猫の見ていない間に、ひとりで家の外へとびだしました。外には危険なものがいっぱい。子どもに捕まりそうになったり、車にひかれそうになったり、大きな犬に追いかけられたり。その度に危機一髪で難を逃れるます。とうとう追いつめられて鳴いていると、お母さん猫は子猫の声を遠くからでも聞きつけてちゃんと探してくれました。お母さん猫はしっかりと子猫をくわえて家へ帰って行きます。
『ちいさなねこ』を読んだ感想:
淡々としたお話なのですが、うちの4歳児にはバッチリはまりました。絵が割と現実的だったのが良かったのかな、と思います。絵を見ながら、猫は怒ると毛を逆立てるんだよとか、犬は怖いと尻尾を足の間に入れるんだよ、などと話しながら読みました。
子供の時、通っていたスイミングプールで迷い猫を見つけました。運よくうちで飼えることになって、迷い猫ということで父が「プー太郎」と名付け、私たち家族の一員になりましたが、私はよく彼のお世話になっていたと思います。
猫を連れ帰ってきた最初の夜、父が洗面器に水を張るよう言いました。台所に運んでくると、父はおもむろに猫の前足を掴み水につけたのです。そしてそのあと後ろ足も。「こうすると猫が家にいつくんだ」と言っていました。その通り、猫は逃げることなくいつでも私たちの家に帰ってきました。
当時朝ごはんにうるめいわしをよく食べさせられたのですが、父が準備するイワシは炙るというより焼くといった感じで、食卓に上がるとカチカチ。私はそれが嫌でたまりませんでしたが、食べないと叱られます。困っていたらプー太郎が私の足元に音もなくやってきました。私の顔を見上げています。私は父が食器を洗っている背中を見ながら、うるめいわしを半分に折って下に下ろしました。プー太郎は喉を優しくゴロゴロ鳴らしながらその半分も、さらに他の半分も頭も食べてしまいました。食べ終わるとプー太郎は何事もなかったかのように、ストーブの火をチェックしに行ってしまいました。こんな風にして、私はプー太郎に色々と食べたくないものを食べてもらっていました。ヨーグルト、魚の皮や頭、肉の脂身がお気に入りだったようですが、時には食べきれないご飯も食べてもらっていました。
ある時父に怒られベッドの上で泣いていると、フッと何かがベッドに上がる気配があります。顔を上げるとプー太郎がいました。プー太郎は個室には入れないようになっていたのですが、どうやって彼が私の部屋まで入ってこれたのかは今も謎です。でも彼はまるで私が泣いているのを聞いていたかのようにどこからともなく現れると、ひらりとベッドに乗ってきました。そして私の顔を覗き込むと、いきなりペロリと涙を舐め始めたのです。ザリザリする舌がほっぺにくすぐったくて、私はすぐにクスクス笑い始めました。するとプー太郎は安心したように私の脇で丸くなってしまいました。私は部屋に響く猫の喉を鳴らす音を聞きながら、ベッドで猫と一緒に寝るのはさぞ気持ちがいいだろうなと思いましたが、父に見つかったらこっぴどく叱られるのは目に見えていましたから、私はプー太郎に説明して廊下に連れ出しました。彼は特に不平をこぼすでもなく私に抱かれて、廊下に着くといつもの定位置、玄関マットの上で鏡餅ポーズをとり目をつぶってしまいました。「僕の役目は完了さ」とでも言っているかのようでした。
きっと私は気づかないところでプー太郎に色々助けてもらっていたんだと思います。廊下の暗闇に向かって弓なりになり、威嚇していたことも何回もあります。あの時もきっと何かから私を守ってくれていたんでしょうね。今更ですが、空にいるプー太郎にありがとうと伝えたいです。
『ちいさなねこ』の作者紹介:
石井桃子
1907年埼玉県生まれ。1951年に『ノンちゃん雲に乗る』で文部大臣賞受賞。1953年児童文学に貢献したことにより菊池寛賞受賞。童話に『三月ひなのつき』『山のトムさん』、絵本に『くいしんぼうのはなこさん』『ありこのおつかい』(以上福音館書店)、翻訳に『クマのプーさん』『たのしい川べ』(以上岩波書店)など多数。2008年逝去。
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