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【絵本レビュー】 『しげちゃん』

作者:室井滋
絵:長谷川義史
出版社:金の星社
発行日:2011年5月

『しげちゃん』のあらすじ:

「ねぇ、お母さん、わたし、じぶんの 名前、キライ! もっと かわいい 名前に かえてよ」

しげちゃんは自分の名前が嫌いだったが、子どもの幸せを願って親が名前をつけることを知り、好きになる。室井滋の名前にまつわるユーモラスなエピソード。


『しげちゃん』を読んだ感想:


ねえ、お母さん、わたし、じぶんの 名前、キライ!
もっと かわいい 名前に かえてよ

激しく同意しながら読みました。

私も小学生の時はじぶんの名前がキライでキライで仕方がありませんでした。小学校に入ったらすぐ男子からからかわれていました。おまけに入学式直前に長かった髪を短く切られてしまい、まるでモンチッチそのものでした。電車通学で朝も早いしお弁当も持っていかなくてはならず、何もかも一人でやっていた父には、私の髪を毎日梳かしたり、結ったりする余裕はなかったのでしょう。変な名前にモンチッチ頭とくれば、小学生男児には格好の餌食です。

私にはどうにもできない理不尽さで、私はすぐに自分の風変わりな名前がキライになりました。暇さえあれば漢字辞典を開いて名前に使えそうな漢字を書き出し、それを組み合わせて名前を作るのが私の趣味となっていました。ついでに男の子の名前も考えて、もし弟ができた場合に私のような目に遭わないよう、準備万端にしておきたかったのです。

どんな名前になりたかったのかは、あまり覚えていません。でも二文字の名前がいいなと思っていました。もちろん苗字との組み合わせも大切ですから、私は作った名前を何度も口に出して言ってみました。そうしているうちに私はだんだん本当に名前が変えられるような気がしてきて、その日が楽しみでならなくなったのです。
「大人になったら名前を変えられる」
そう思って毎日を過ごしていました。

それでもやっぱり学校でからかわれるので、父に言ったんです。
「もっと普通の名前に変えたい。」
そうしたら父は、
「普通の名前ってなんだ。面白くもない。みんながみんな同じ名前でどうするんだ。」

その時の私が望んでいたものはそれでした。突出しない名前。「普通で何が悪いんだ」と思いました。すると父は続けます。
「パパはな、女の子が生まれるって決めてたんだ。だから名前も用意して待ってたんだぞ。お前の名前は、パパの大好きなジャズのアルバムから取ったんだ。」
そう言って、父はそのアルバムを見せてくれました。自分の名前がタイトルになっているアルバムを見るのは、なんだか不思議な気分でした。まるで私のために作られた音楽のような気がしました。そして父は言いました。
「フランスにはな、お前の名前は普通なんだ。すぐ覚えてもらえるぞ。」

私はなぜか「フランスに私みたいな名前が多い」ということに希望を託しました。大人になったらフランスに住もうとさえ思いました。もちろんそのあとフランス語の発音があまりにも難しいことに気づき諦めたのですけれどね。そして代わりに習ったスペイン語では私の名前は発音しづらく、初めての人には絶対正しく読んでもらえなかったのですが、それはまた別の話。

海外に出てから二十年。私はまだ同じ名前の人に会ったことがありません。でもそんなことはもうどうでもよくなりました。だってみんなにすぐ名前を覚えてもらえるんですから。「どんな意味があるの」と聞かれると、私は「子供の時は大嫌いだったんだけどね」と言ってから、得意げに父が教えてくれた二つのエピソードを話します。

五年前息子が生まれた時、旦那は名前に関しては私に任せっきりでした。どうでもいいのではなくて、彼の生まれた国では女性が決めるのが習慣なのだそうです。九ヶ月もお腹の中で育てていたのだから、ぴったりくる名前を父親よりもよく知っている、というのが理由だそうです。私は色々調べた後、私が生まれた場所のことを忘れないでほしいという願いを込めた名前をつけました。私の願いだけでなく、彼の顔を見ていると、この名前でよかったなと思えるほどぴったりしています。いつか彼が「名前を変えたい」と言って来たら、この話をしてあげようと思います。

『しげちゃん』の作者紹介:

室井滋
1958年富山県生まれ。女優。早稲田大学在学中に『風の歌を聴け』(1981年)でスクリーンデビュー。映画『居酒屋ゆうれい』『のど自慢』『OUT』『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』などで映画賞を多数受賞。エッセイストでもあり、著書に『すっぴん魂大全 赤饅頭/白饅頭』(文藝春秋)、『気になり飯 うまうまノート2』(講談社文庫)、『マーキングブルース』(MF文庫ダ・ヴィンチ)などがある。また、ディズニー映画『ファインディング・ニモ』のドリーの吹き替えや、NHKエンタープライズ発行のDVD『なぜ? どうして? がおがおぶーっ!』のリラさんの声で人気。絵本作品に『しげちゃん』(金の星社)がある。



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