【絵本レビュー】 『ねずみくんはおおきくなったらなにになる?』
作者:なかえよしを
絵:上野紀子
出版社:あかね書房
発行日:2007年10月
『ねずみくんはおおきくなったらなにになる?』のあらすじ:
おおきくなったら なにに なるの? ねみちゃんにきかれたねずみくんは、考えこんでしまいました。そこへ仲間達がやってきて・・・。
『ねずみくんはおおきくなったらなにになる?』を読んだ感想:
「大きくなったらなにになりたい?」
大人が子供たちによく聞く質問ですね。でも私にとってはいちばん苦手な質問でした。というのも、私には「大人になる」という考えが全くなかったからです。幼稚園児の私にとって人間は二種類いました。子供と大人です。子供はずっと子供で、大人はずっと大人なのだと思っていたのです。
「おとなになる? おとなはパパとママで、わたしはずっとこども。」
周りの子供達が「やきゅうせんしゅ」「かんごふさん」「でんしゃのうんてんしゅ」なんて嬉々として答えているのを見ながら私は、
「なんでおとなのすることをマネしたいんだろう」
とすら思っていました。
小学生になってある日クラスメイトの女の子が言ったんです。
「ねえしってる。パパやママってしんじゃうんだよ!」
「なにそれ?」
私の中に衝撃が走りました。親が死んでしまうなんてそれまで考えたことがなかったのです。毎年誕生日をお祝いしていたけれど、それが成長すること、死に向かっていることだなんて全く想像していませんでした。八歳の私の心臓はバクバクし、今すぐ家に帰って父がちゃんと生きているか確かめたいという衝動を抑えるのに精一杯でした。その日一日授業も耳に入って来ず、さようならの会が終わったあと私は一目散に家に向かいました。
鍵なんてかけたことのなかった玄関を開けると、靴も脱ぎ飛ばして家に入りました。いつものようにソファで新聞を読んでいた父をみつけたときには、腰が抜けるほどでした。一日中ものすごく緊張していたのだと思います。そしてその日から毎晩寝る前に父におやすみをした後聞きました。
「あしたもあえるよね。」
そんなことを聞く私を父はもちろんちょっと気味悪そうに見ていましたが、私は父の「ああ」というぶっきらぼうな答えを聞くだけで安心していました。
あの同級生の一言が私を夢の世界から引き抜くきっかけとなり、私もいずれ大人になるんだと気づかせてくれたのです。そして誰かに「大きくなったら何になりたいの?」と聞かれても困惑せずにはっきり答えられるようになったのです。
「本を書く人」
が私のなりたい職業となりました。そんな私を見て母は苦笑いしながら、
「もっとお金になる商売の方がいいんじゃないの?」
と言ったものでした。なりたいものがわからなければ心配し、なりたいものがお金にならないとそれはそれで心配する。親って勝手なものですよね。大人になった私は本を書く人にはなりませんでした。かといってたくさんお金を稼げる仕事にも就けなかったので、両親は今でもやっぱり心配しているのかもしれません。
さてうちの五歳児は一体何になりたいんでしょう。アイスを食べればアイス屋さんになりたがり、スペースシャトルを見ればシャトルを作る人、パトカーを見れば警察官と毎日変わる彼を見て、ちょっと羨ましくも思います。お金のためとか、親のためとかいうしがらみなく、毎日自由に何にでもなれるなんて素敵ですよね。可能性は無限大。目一杯その永遠の可能性を楽しんでほしいと願っています。
みなさんは大きくなったら何になりたかったですか。
『ねずみくんはおおきくなったらなにになる?』の作者紹介:
なかえよしを
1940年、兵庫県神戸市生まれ。日本大学芸術学部美術科卒業。広告のデザイナーを経て、絵本の世界へ。「いたずらララちゃん」(ポプラ社)で第10回絵本にっぽん賞受賞。主な作品に「ねずみくんのチョッキ」(ポプラ社)「こねこのクリスマス」(教育画劇)「まじょとタイムマシン」(金の星社)など多数。神奈川県在住。