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【絵本レビュー】 『たろうのひっこし』
作者:村山桂子
絵:堀内誠一
出版社:福音館書店
発行日:1985年2月
『たろうのひっこし』のあらすじ:
たろうがお母さんに自分の部屋がほしいというと、お母さんは1枚の赤いじゅうたんをもってきて、「これを広げたところがたろうのお部屋よ」といいました。たろうが階段の下にじゅうたんを広げると、ネコのみーやは窓のある部屋がいいというので、出窓の下に引っ越しです。次はイヌのちろーも入れるように犬小屋の前へ引っ越し……と仲間をふやしながら次々引っ越して……。
『たろうのひっこし』を読んだ感想:
私の家族は転勤族でもないのにひっこしが多くて、大学に入るまでにおそらく7回は引越しをしたと思います。引っ越しても学校は変わらなかったので、地元の友達というものができずに育ちましたが、引越しぐせはどうやら身についてしまったようです。その後大学を卒業し日本を出てしまっても癖というのは治りにくいもので、1年以上一つの場所にいるとお尻がムズムズして来ます。「引越し貧乏」とはよく言ったものだなあと、感心してみるもののむず痒くなって来たら止めようがありません。
思い出に残っているのは、ロンドンで初めてのシェアハウス生活を始めた時です。それまでお世話になっていたホストファミリーの家を出て、シェアハウスに移りました。最初に見た広告に電話をし、「見にいらっしゃい」と言われたので行ってみると、大家さんはなんとエリカバドゥみたいな髪型の女性。考える前に口に出してしまったのですが思いの外喜んでもらえて、部屋も即決定してしまいました。こうして私の初の一人暮らし、初のシェアハウス生活が始まったのです。
その家は一軒家で下の階に2部屋、上の部屋に2部屋とお風呂場がひとつという割と大きな家でした。私以外は全員ジャマイカ人という家の一員になったのです。下階にはジャッキーという女性とすぐ出て行ってしまいましたが、カナダから来たという男性。上階にはシモーンという陽気な女性がいました。その後シモーンのいとこがジャマイカからやって来て部屋をシェアするようになったので、家では誰かしらがいつも料理や掃除をしているという賑やかな生活でした。
ジャッキーは雨になると落ち込みがちで、家からも出ません。ジャマイカにおいて来た娘さんの話をよくしてくれて、いつも国際電話用のカードを手に持っていました。料理も上手で、私が仕事から帰ってくるとドアから顔を出して、「戸棚に夕飯あるわよ」と教えてくれます。彼女のおかげでヤギのカレーや鶏の足といったジャマイカの家庭料理をたくさん味わいました。ある時私がジャッキーのご飯を食べていると、シモーンといとこも下に来て「これであなたもジャマイカ人の仲間入りだねえ」とニコニコ。ジャッキーに至っては「毎日食べてれば、お尻だってジャマイカ人並みに大きくなるわ」と大笑いです。残念ながら、お尻はあまり育ちませんでしたけどね。
彼女たちは髪の毛を毎日洗いません。毎日濡れた髪で風呂から出てくる私を見て彼女たちはびっくりしていましたが、私は彼女たちが2週間に一回1日かけて髪の毛を洗うのを見る方がびっくりでした。洗髪日は前日に発表されました。なのでその日は言われた時間の前にお風呂場を使わなくてはなりません。そうしてお風呂場から数時間楽しそうな歌声が聞こえて来ます。お昼過ぎてやっと出てくると、今度は乾燥させるのですが、なんとそれが大仕事。クルクルと巻いた毛に水が絡みつくように含まれ、ちゃんと乾かすのにとても時間がかかるんだとか。彼女たちはその間も歌ったり踊ったりしています。その声は廊下を渡って聞こえて来て、あんまり楽しそうだったので、私は部屋を覗きに行きました。「入りなよ〜」と言われ、私は彼女たちの洗髪日に午後中付き合ったのです。
珍しそうに見ている私にシモーンのいとこが言いました。「どうして髪を毎日洗うの?」「毎日洗うのが好きだから。でも最低でも一日置きに洗わないと髪が脂っぽくなって、痒くなるよ」彼女はびっくりしたように私を見て聞きました。「触ってもてもいい?」「もちろん!」
「柔らかくてツルツル!」彼女は本当にびっくりして叫びました。アジア人の髪を触ったのは生まれて初めてとか。シモーンも寄って来て触りました。そして「私の髪、触ってみる?」私にとってもいわゆるアフロヘアを触るのは、生まれて初めてでした。予想に反して彼女の髪は固く乾いていました。てっきりプードルみたいに柔らかいものと思っていたのです。乾いているからヘアクリームやオイルが欠かせないんだそうです。同じように皮膚も乾燥しやすく、定期的にココナッツオイルを塗るんだとか。塗るところを見せてくれましたが、本当にオイルはあっという間に肌に吸収されてしまいました。私も試してみましたが、オイルは肌の上でしばらくベタベタしていました。シモーンは私の髪でドレッドを作ろうとしましたが、何度しても失敗。「三つ編みすらできないよ!」と大笑いです。なるほど、彼女たちの髪は三つ編みしたらゴムをしなくてもちゃんとそのまま残っています。今度は私が笑う番でした。
髪を洗うのに一日がかり?と思ったのですが、とっても楽しい文化交流の午後となりました。その後少しして私の引越し病が発生し家を出たのですが、今でも彼女たちとの生活は良く思い出します。みんなどうしているのかな。
『たろうのひっこし』の作者紹介:
村山桂子
1930年、静岡県生まれ。文化学院卒。お茶の水女子大学幼稚園教員養成課程修了後、幼稚園に勤務。第2回全国児童文化教育研究大会童話コンクール入選。主な作品に、『たろうのばけつ』『たろうのおでかけ』『たろうのともだち』『おかえし』『ひつじのむくむく』(以上、福音館書店)、『はねーるのいたずら』『きょうだいぎつねの コンとキン』(ともに、フレーベル館)、『もりのおいしゃさん』『コンタのクリスマス』(ともに、あかね書房)などがある。
村山桂子さんの他の作品
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