【絵本レビュー】 『はなをくんくん』
作者:ルース・クラウス
絵:マーク・シーモント
訳:きじまはじめ
出版社:福音館書店
発行日:1967年3月
『はなをくんくん』のあらすじ:
冬の森の中、雪の下で動物たちは冬眠をしています。野ねずみも、くまも、小さなかたつむりも…。でも、とつぜんみんなは目をさましました。はなをくんくんさせています。みんなはなをくんくんさせながら、雪の中をかけていきます。みんなとまって、笑って、踊りだしました。
『はなをくんくん』を読んだ感想:
日本にいた時、春は前に看板を抱えてやってきていたような気がします。梅が咲いて、風が柔らかくなって、桜の蕾が膨らんでくると、ニュースで「春一番が吹きました」と発表されました。新宿駅の大型スクリーンみたいに大きな広告をかざして、春はやってきました。
ヨーロッパに住むようになって、四季を感じることが少なくなってきました。以前住んでいたマドリードでは、長くて肌が焦げるほど暑い夏が終わるといきなりひんやりした風が吹き、秋のファッションが楽しめると思うまもなく冬の乾いた風が吹いてきました。紅葉を楽しむ間もないほど短い秋に、葉っぱもさっさと散ってしまった気がします。
今いるベルリンでは、今年夏は一週間ほどでした。三十度を超える日が数日あって、よしこれから外プールに行かれる!とガッツポーズをしている間に気温がどんどん下がって、八月中旬にはジャケットやコートを着る日がほとんどになってしまいました。なんだか消化不良な夏で、もう十月にもなろうというのに、私はまだ夏を待っている始末なのですが、春も来ているのかいないのかはっきりしません。四月になっても風は氷みたいに冷たくて、五月になっても薄手のコートを着ていると、もういい加減春になってくれないかなと思うのです。寒々した中に咲く桜を見てもなんだか申し訳ない気がして、ああ春が来たなあとは思えないのです。
前にアイスランドに住んでいる方と知り合った時、最初の数年あまりにも長い冬に鬱になったと話してくれました。一体いつになったら春が来るんだと思っているうちに人々は夏が来たと歓喜を上げ、夏はいつ来るんだと思っているうちにまた長い冬が始まっていたのだそうです。それが数年続いた後、このままではいけないと思い、ある花が咲いたら春がきたという徴というルールを決めてからは春が楽しめるようになったと教えてくれました。
向こうから来るのを待っていてはダメなんですね。季節だって人だって、いつも向こうから声をかけて来てくれるとは限らない。自分から見つけて行って、声をかけなくてはさっさと行ってしまっていることもあるんです。三十度越えの最初の数日を、これから暖かくなるサインだと思い込んだのは私でした。ドイツ人の友達は、その三十度の日にちゃんと外プールへ行ったり湖へ行ったりしていたんです。のんびり待っていたのは私だけ。風が冷たいから桜が楽しめないと決めつけているのも私なのです。
私にかけているのは、森の動物たちのように一本の花を見に走っていく気持ちなのかもしれませんね。そしてその一本から春を感じ取る繊細さも欠けているのかもしれません。感じ取れなかった夏を振り返ってぐずぐずしている間に、秋も見逃してしまうところでした。今日は麦わら帽子をしまって、ズボンも長めにしたらブーツを出そうと思います。せめて秋から楽しまなくちゃですね。
『はなをくんくん』の作者紹介:
ルース・クラウス (Ruth Krauss)
1901年、アメリカ ボルティモア生まれ。ピーボディ芸術学院で絵と音楽を学び、その後、ニューヨークのパーソンスクール応用美術科を卒業。夫クロケット・ジョンソンとのコンビ作品も。1993年没。