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【絵本レビュー】 『まっくろネリノ』

作者/絵:ヘルガ・ガルラー
訳:やがわすみこ
出版社:偕成社
発行日:1973年7月

『まっくろネリノ』のあらすじ:

まっくろネリノは兄弟の鳥たちにも仲間はずれにされて、いつもひとりぽっち。しんみりと味わい深く、ソフトなパステル画で描く。

『まっくろネリノ』を読んだ感想:

まっくろな自分が嫌で変わりたいと思っている小鳥ネリノは、他の兄弟のようになりたいと思っています。

今の自分が好きになれない、という時期は私にもありました。今私が自分のこと大好きかというと、まあ気にくわないところもいろいろありますが、この歳になると、嫌いというより「しょうがないなあ」というように気持ちが変わっています。

小学校高学年の時の私はニキビに悩まされていました。クラスの中であるのは私だけで、男子の中には「ブツブツ〜」とからかう子もいました。6年生の時が一番ひどく、ニキビはおでこから鼻の脇に沿ってできたので、今度は「ブツブツ人、人〜」と言われました。病院にも行ったし、薬もつけていたし、ニキビ用の洗顔製品もいろいろ試しました。漢方薬も何年も飲みました。でもよくなりません。私はだんだん写真を撮られるのが嫌になりました。写真の自分を見るのがとても辛かったのです。父は私の写真をドキュメンタリー並みに撮るのが趣味でしたから、私が写真を嫌がるたびに腹を立てました。アルバムを見ても、私が11歳くらいの頃から写真の量は急激に減っています。

おまけにうちの母親はまあご気楽な人で、悪気はないのですが、私のことを人前で大声で笑って、それが原因でできなくなってしまったことがいくつかあったのです。例えばおでこ。私のおでこは割と広めで、子供だから尚更広いのですが、それを母は笑うのです。「デコッピ!」と言ってケラケラ笑いながらおでこを叩かれることが何回かあって、それ以来私はいつも前髪を垂らしておでこを隠していました。

それから鼻。母に「鼻ぺちゃ」と言われ続け、未だにコンプレックスがあります。高校生の時母親から真剣に、「整形したかったら、お金出すよ」と言われ正直ショックを受けました。「鼻があとちょっと高かったら見栄えがしたのにねえ」とも言われた時は怒るより呆れてしまいましたけどね。さらに、前にも話しましたが、母親と二人でジムのヒップホップクラスに行った時、後ろから母親に大声で笑われる事件もあり、未だに人前で踊れません。

これらは一度に起きたわけではありませんが、10代の私とっては自信を失うに十分な理由でした。ニキビのないすべすべの肌に憧れ、おでこを隠し、もっと鼻が高くなったらと願いながら生きていたのですが、ある日の同級生の言葉が全てを変えました。

それは体育の後。夏だったので汗をかき、私は着替える前に洗顔料で顔を洗っていました。隣に来た同級生が顔を拭いている私を見て一言。「肌綺麗だねえ」私から出た最初の言葉は、「へ?」。そんなはずはありません。だって私の顔はニキビだらけなんですから。「でもニキビがいっぱいでさ」と言うと彼女は顔を横に向けて、「あ、私もあるよ。できて欲しくない時にできるよねえ」とちょっと大きめのニキビを見せてくれました。私は自分のニキビばかりに執着していて、他の人にもできると言うことをすっかり忘れていたのです。確かにその時私のほっぺにあったのは大きなニキビが一つ。それくらい10代の時は普通ですよね。

また他の時は教室で。同級生と休み時間に話していたら急に、「〇〇、おでこ広そうだね」と言うではないですか。私はどきっとしました。触れて欲しくないテーマです。「見せて」と彼女。私がグズグズしていると、彼女が垂らしていた前髪を持ち上げました。「私、おでこが狭くてさ。大嫌いなんだ。しかも毛が生えててさらに狭く見えるの」確かに彼女のおでこは指2本半くらいしかありませんでした。別の同級生が指を自分のおでこに当てて、「私は3本くらいかな」。私は恐る恐る前髪を上げて指を額に当てました。手のひらが全部収まります。「おおおおお」と歓声が上がりました。「いいなあ!しかも丸い形がすごく綺麗!」と2本半の彼女。自分のおでこの形について考えたのは、その時が初めてでした。その後の彼女のひと言はまさにライフセーバーとなりました。「せっかくのおでこなんだから、前髪上げてみたら?」私の頭の中に花吹雪が舞っていました。手を広げてその花びらのプールの中にゆっくり倒れていく私自身をぼんやり眺めていました。その日私は家に帰るなり母親に、「おでこの形がいいよって褒められた」と言いました。すると驚いたことに母はぺろっと前髪を上げて、「知ってるよ。ママのは狭いからさ、羨ましかった」なんてこと!意地悪だと思っていた母親のコメントは、嫉妬からだったなんて。 私は拍子抜けしてしまったのですが、もちろん翌日から私は前髪を分けておでこをぺろりんと出して学校へ行きました。

この絵本は「私なんて。。。」と思っている大人にもオススメです。

『まっくろネリノ』の作者紹介:

ヘルガ・ガルラー(Helga Galler)
1939年ウィーン生まれ。美術工芸出身でアメリカやイタリアに渡り、服飾デザインや室内装飾・アニメーション映画などの仕事で幅広く活躍。 
68年の絵本『まっくろネリノ』は彼女の初めての絵本で、その年、オーストラリア児童文学最優秀賞を受賞しています。その後は、『二人の星どろぼう』『銀の王子さま』『にこにこちゃんといやいやちゃん』など4冊の絵本を発表しているそうですが、いずれも現時点で邦訳はなく、洋書でも今の所は見かけた事がありません。読書好きの若者の間で人気の書店、ユトレヒトさんのHPサイト情報によると、正式なクレジットはなされていませんが、60年代のお洒落スパイ映画『カジノ・ロワイヤル』のタイトルバック・デザインに、彼女が参加しているようです。


ヘルガ・ガルラーさんの他の作品

現時点で翻訳されている本はないようです。

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