【絵本レビュー】 『ねこのなまえ』
作者/絵:いとうひろし
出版社:徳間書店
発行日:2006年5月
『ねこのなまえ』のあらすじ:
気持ちのいい春の午後、さっちゃんが公園へむかって歩いていると、一ぴきのねこが話しかけてきました。「ぼくのお願い、きいてもらえませんか?」ねこはのらねこで、名前がないので、さっちゃんに、名前をつけてほしい、というのです。名前がないって、どういうこと? いったい、どうやってつけたらいいの…?
『ねこのなまえ』を読んだ感想:
まず最初に思い出したのは、小学校の時拾った猫のことです。ある日スイミングが終わり更衣室から出てくると、ドアの前に猫が一匹座っていました。スイミングはある高校の屋上部分、5階にあったので、猫は校庭を横切り、プールへ続く別設の階段を登って来たのでしょう。私を含め子供たちは大興奮。誰もかれもが家へ電話して、この猫を連れて帰ってもいいか聞きましたが、どの親もいいとは言いませんでした。最後に残ったのは私。猫を抱え、父の待つ車まで行ったのです。どうせダメだと思っていたら、意外にも答えは「いいよ」でした。私はいつ父の気が変わるかわからなかったので、家に着くまでドキドキしながら猫をしっかり抱きしめていました。家に着くと父は洗面器に水を張って猫の足を軽く浸けました。「この猫は野良だったから、こうすると家に居着くようになるんだぞ」と言ってから、父は猫を「プー」と名付けました。プー太郎のプーなんだそうです。それから徐々に気づいたのは、この猫は野良ではなくて飼い猫だったことです。きっと違う名前があっただろうに、新しい名前を快く受け入れてくれて、泣き虫の私の面倒をよく見てくれました。プーは野良猫をよく家に連れて来て、ご飯を食べさせてあげたものでした。残念ながらプーは、道を渡るのに失敗し、うちの前で車にはねられ死んでしまいました。うちにいた時間はほんの一年ほどでしたが、彼にとって意味のある時間だったといいなと思います。
もう一つ考えたのは私自身の名前に対するコンプレックスです。別の記事でも書きましたが、小学校の時は「オレンジジュース」とか「焼肉ジュージュー」とからかわれて、自分の名前が嫌で嫌で仕方ありませんでした。毎日毎日「もし別の名前だったら」と夢見ていたのです。もし「れな」とか「みき」だったらきっと静かに幸せになれるのに、と違う名前の自分を想像して日々を過ごしていました。
ところがあるひ父が言ったんです。「その名前はね、フランスじゃ普通なんだよ。パパはね、お前が大きくなって日本の外に出てもみんながすぐに覚えてくれるようにって、その名前にしたんだ」
その日から私の夢は一刻も早く日本を出て、名前の目立たない国で暮らすこととなりました。海外に出ても私の名前はやっぱり変わっているけど、それでもからかわれることはないし、父が言ったようにみんなすぐ覚えてくれます。この名前じゃなかったら、海外で暮らすようにもなっていなかったし、今の私にもなっていなかったのかなと思うと、名前ってその人を形造る大切なものなんだと改めて思い、今はこの名前に感謝しています。名前をつけてくれてありがとう。
『ねこのなまえ』の作者紹介:
いとうひろし
1957年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。独特のユーモラスであたたかみのあ る作風の絵本・挿絵の仕事で活躍中。おもな作品に 「おさるのまいにち」シリーズ(講談社刊、路傍の石幼少年文学賞受賞)、「ルラルさんのにわ」シリーズ(絵本にっぽん賞受賞)「くもくん」(以上ポプラ社刊)、「あぶくアキラのあわの旅」(理論社刊)、「ごきげんなすてご」シリーズ、「ふたりでまいご」「ねこと友だち」「マンホールからこんにちは」「アイスクリームでかんぱい」「あかちゃんのおさんぽ①②」「ねこのなまえ」(以上徳間書店刊)など多数。 「ふたりでまいご」の姉妹編、「ふたりでおるすばん」が徳間書店から11月に刊行予定!