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【絵本レビュー】 『もりのおくのおちゃかいへ』
作者/絵:みやこしあきこ
出版社:偕成社
発行日:2010年11月
『もりのおくのおちゃかいへ』のあらすじ:
おつかいに行くキッコちゃんが見つけた不思議な館。そっとのぞいてみると、おめかしした動物たちがすてきなお茶会を開いていました。
『もりのおくのおちゃかいへ』を読んだ感想:
「ゆめみてたのかね」
読み終わった途端女の子が言いました。こんな夢なら覚めたくないし、毎日見たいなと思った私でした。
お父さんだと思って追いかけて行ったら違う人だった、ということは子供だったらよくあることですよね。私は迷子になったことはないけれど、おいていかれたことはよくありました。私の父は私が道でイヤイヤを始めるとさっさと歩き去りました。ある時おもちゃ屋の前を通った時、私は何か気になるものを見つけ立ち止まりました。「パパ、これみ。。。」振り返ると父はすでにいません。私は焦って走り出しました。当時の私は4、5歳だったでしょうか。人々の足がまるでジャングルのように見えました。私は知っている父の足を探して走ります。信号までやって来て私は止まりました。一人で道路を渡ってはいけないことになっていたからです。父はいません。父に会えなかったらどうしよう。家に帰れなくなってしまう。私の心臓はバクバク鳴っています。
「パパ、まって」と声をかけた人は父ではありませんでした。その人は呼びかけられたことにちょっとびっくりした風でしたが、さっさと歩いて行ってしまいました。私は父が見つからなかったことよりも、知らない人に話しかけたことの方が怖くてその場に立ち止まってしまいました。目の前を数々の足がさっさと通り過ぎていきます。それらは人の足というより、工場のベルトコンベアーを次々流れていくビンのようにも見えました。森に住む動物たちだったらどんなによかったでしょうね。それでも私はその足のある場所には属してないような気がしたことは確かです。なんだか他の世界をガラス越しに見ているような、そんな感覚だったことは覚えています。
心配と恐怖で叫び出しそうになったその瞬間、「おい」と呼びかける父の声がしました。「何してんだ、ここにいるぞ」父は笑ってさえいます。まるで私がおもちゃ屋の前で止まったことになど気づかなかったかのように。今親になって思うのは、父はずっと私を見ていたのではないかということです。うちの4歳児を見ていて思うのですが、子供って振り返った時に親がいないともういないものだと思ってパニックになるようです。私たちからはちゃんと見えているのに、子供たちからは見えない。そう考えると子供って、私たちの世界には完全に足を踏み込んでいないみたいです。だから不思議なものがよく見えるのかもしれませんね。父を見失った私は、いったい何を見ていたんでしょう。
『もりのおくのおちゃかいへ』の作者紹介:
みやこしあきこ
1982年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学卒業。大学在学中から絵本を描きはじめる。2007年より1年間ベルリンに滞在。2012年『もりのおくのおちゃかいへ』(偕成社)で、第17回日本絵本賞大賞を受賞。『よるのかえりみち』(偕成社)で、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞、ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞を受賞。作品に『ピアノはっぴょうかい』『これ だれの?』『ぼくのたび』(ブロンズ新社)、『のはらのおへや 』(ポプラ社)、『かいちゅうでんとう 』(福音館書店)他多数。1児の母。東京都在住。
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