【絵本レビュー】 『であえてほんとうによかった』
作者/絵:宮西達也
出版社:ポプラ社
発行日:2009年11月
『であえてほんとうによかった』のあらすじ:
きらわれもののティラノサウルスが、小さなスピノサウルスのこどもをパクリッと食べようとしたとき、大きな地震がグラグラグラ。
地面がわれて、ふたりのいた場所は小さな島になって海へ流されてしまいました。
スピノサウルスの子は、毎日へとへとになるまでティラノサウルスのために魚をとってあげました。
そんなスピノサウルスの子に、ティラノサウルスもまた、なにかをしてあげたいと思うようになりました。
だれかが喜んでくれることが、自分も幸せにしてくれること、だれかを想うことがつながって、大きな愛になることを感じさせてくれる絵本です。
『であえてほんとうによかった』を読んだ感想:
「ティラノサウルス〜!」と歓喜する息子。
「ティラノサウルス〜!」と涙ぐむ母。
大人と子供ではかなり捉え方が違うのではないかと思われるのがこのティラノサウルスのシリーズです。
メソメソに「ありがとう」とか「すごい」とか「面白い」なんて生まれて初めて言われたティラノサウルスの心はだんだん暖かくなり、メソメソに対して愛情を感じるようになっていきます。生まれてから一度も感謝されたり褒められたりしたことがない心は、きっと硬く乾いて縮こまっていることでしょう。
父には家族がいませんでした。あまり家族の話をすることもありませんでしたし、母も父の家族にはあったことがありません。数回話してくれたところによると、父の両親は彼が大学生の時になくなり、姉の一人はそれ以前、もう一人の姉も両親が亡くなったのと同時期くらいにやはり結核で亡くなったそうです。父の父が亡くなった時、それまで連絡がなかった遠くの親戚が何人かやって来て、まだ大学生だった父に「管理してあげるから」という理由で家なども含め全部父の手から取って行こうとしたのだそうです。父の両親が病気の時に一度も連絡がなかったのに、亡くなったと知った途端寄ってくるなんてと思った父は、全ての親戚と縁を切ったのだそうです。なので母と知り合った時父はこの世でたった独りでした。
父は一生のうちで女の子が一人だけ欲しくて、私が生まれてからもっと子供が欲しいとは思わなかったそうです。小さかった頃の私はどこへ行くのも父と一緒。もっと小さかったら、セレブリティのチワワみたいにハンドバッグに入れられて運ばれていたのではないかと思うほど大切にされていたそうです。でも中学に入った頃からケンカが絶えなくなり、結局大学を卒業してお金を貯めると、私はさっさと海外へ逃げてしまいました。家を出るなら遠く、国内にいたら父にダメにされると考えるくらいにまで私たちの関係は悪化していました。
小学校の時の私は感謝の気持ちを父に表せるほど成長していなく、やっとそういう年齢になった時にはほぼ毎日喧嘩と罰ばかりだったので、父と大人として話し合うことは結局ありませんでした。父がどのようにして育ったのか、いったいどんな気持ちだったのかなども分からずじまいです。私が口答えばかりすると怒っている姿しか見ることがありませんでした。でももしかしたら、父の心はティラノサウルスのように乾いてカサカサだったのかもしれませんね。誰かに優しい言葉をかけてもらえるのを、どこかで待っていたのかもしれないなと思うと、もうそれを試すことすらできないことが悔やまれます。もしかしたらどこかで聞いているかもしれないので、言ってみます。
「パパ、たくさんありがとう」
『であえてほんとうによかった』の作者紹介:
宮西達也
1956年静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。「きょうはなんてうんがいいんだろう」(鈴木出版刊)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。「パパはウルトラセブン」(学研刊)などでけんぶち絵本の里大賞を受賞。「おとうさんはウルトラマン」(学研刊)などの作品がある。 「ティラノサウルス」シリーズ初の幼年童話!
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