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【絵本レビュー】 『これはのみのぴこ』

作者:谷川俊太郎
絵:和田誠
出版社:サンリード
発行日:1979年1月

『これはのみのぴこ』のあらすじ:


「これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもん」
「これは のみの ぴこの すんでいる ねこの ごえもんの しっぽ ふんずけた あきらくん」

ページをめくることに言葉がつみかさなっていき、
最初は短かった文章が、どんどん長い文章に。

『これはのみのぴこ』を読んだ感想:

谷川俊太郎さんの文章と和田誠さんのイラストは、私が完璧なマッチと思うコンビのひとつです。またこの絵本は、ページごとに文章が増えていって、息が続かないよ〜というところに楽しさがあります。しかし、かくいう私は早口が苦手で、学生の時にはよく「古いカセットテープのよう」とか「眠くなる」とか結構からかわれ、せっかちな母といるときはよく話している最中の文章を持って行かれてしまうこともあり、文句を言うと、「だってあんまりノロいから待ってられなくて」と言われました。なので、私なりに早く読んだつもりですが、はてさて一体どのくらい早かったのかは謎です。

ある日うちに子猫が来ました。父がどこからか連れて帰って来たのです。小学校1年生だった私の両手に収まるくらいの小さなトラ猫でした。まだにゃーではなくて、ぴーと鳴くような小さな子で、まん丸なお腹をしていました。私たちはすぐに仲良くなり、なんでも一緒にしました。子猫の鼻筋はベルベットのように滑らかで、私はそこを撫でるのが大好き、猫はそこを撫でられるのが大好きで、ひときわ大きな音でグーグーグーと喉を鳴らしたものでした。あるときは一緒にソファに座って鼻筋を撫でているうちに寝てしまい、起きたら子猫も私のお腹の上で寝ていました。今思うと、あれはとても幸せな瞬間ナンバー10に絶対入ると思います。

子猫はソファに登りたくて飛び乗ろうと試みるのですが、大抵は側面に忍者のように張り付いたあとずりずりと落ちていきました。問題は張り付いた時にソファに爪を立てるので、まさに漫画のごとくソファに切れ目が入っていくことでした。数週間もするとソファの側面はボロボロになり、それを見る父の顔もだんだん険しくなっていきました。でも子猫はトイレの場所もすぐ覚えたし、テーブルに上がってはいけないことも学んだので、ソファのことだってすぐに理解できるようになったはずだと思います。

ある日から子猫は足で首筋を頻繁に掻くようになりました。父が見ると毛の中に黒いプチプチがありました。「ノミだ」と父が言いました。それは胡椒をふりかけたみたいにパラパラと毛の間に散らばっていました。その次の日から子猫の首には、薬の入った首輪がつけられました。ノミ用の梳き櫛も買って来て、一日に何回か梳いてやりました。櫛の歯の間に黒いプチプチがあって、父がそれをティッシュに取って捨てました。

私と猫はベッドの下でかくれんぼをするのが好きでした。子猫がベッドの下に潜り込んで、私が手をピアノを弾くみたいに動かして誘き寄せるというゲームです。子猫は小さなお尻を左右に振って飛び掛かる準備をするので、手を引くタイミングを見はからないと引っかかれてしまいます。出て来たと同時に首を抑えて捕まえて終わりなのですが、その日に限って私はぼんやりしていたのか、手を弾くのが遅すぎたんです。手首の内側に見事な引っかき傷ができました。みるみる血が滲んで来ました。私はちょっとびっくりして、父のところに行き手を見せました。すると父は私よりももっとびっくりしたようで、慌てて手首を消毒すると薬をつけてくれました。私はそれでもう落ち着いて遊び始めていたのですが、父が突然「子猫を獣医のところに連れていく。ノミを診てもらうんだ」と言って家を出て行きました。私は特に深く考えなかったのですが、それから1、2時間して戻って来たのは父ひとり。子猫のことを聞くと父は、「ノミがいっぱい出てぐったりしているから入院させた」というではないですか。そんなわけはありません。ついさっきまで一緒に元気に遊んでいたんですから。そう言ったけれど、父は「ノミが」と言い張ります。さっき引っ掻かれた傷口が必要以上に痛くなった気がしました。

翌日学校から帰った私は、真っ先に父に猫のことを聞きました。きっと先生が良くしてくれたと思ったのとは裏腹に、父は「死んじゃった」というではありませんか。子供ながらに私は納得がいかず、どうしてを連発して父を責めましたが答えはなく、私はあの子猫を見ることはありませんでした。もう数ヶ月待ったら、きっとあのソファにも軽々ジャンプして乗れるようになっていただろうに。私はそれから1週間ほどはかなり落ち込んでいたと思います。猫が私の手首を引っ掻いたことに父が腹を立て、ペットショップに返してしまったのかもしれません。ノミが減らず、本当に弱ってしまったのかもしれません。本当のところはもうわかりません。でもノミという言葉を聞くと、いつもあの小さなトラ猫を思い出すのです。

『これはのみのぴこ』の作者紹介:

谷川俊太郎
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。

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風の子
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