【絵本レビュー】 『ぼくたちはまたなかよしさ!』
作者/絵:ハンス・ウィルヘルム
訳:久山太市
出版社:評論社
発行日:1988年12月
『ぼくたちはまたなかよしさ!』のあらすじ:
ぼくと妹は、たいていはなかよし。でもある日、妹のやつとんでもないことをやらかした。ぼくは、おこった。すごく、おこった!
『ぼくたちはまたなかよしさ!』を読んだ感想:
わたしは一人っ子なので兄弟喧嘩というものに憧れていました。遊んでいる横から弟や妹がおもちゃを持っていってしまうということもなかったし、お姉ちゃんやお兄ちゃんと遊びたいのにいつも邪魔者扱いされていたということもありませんでした。
でも考えてみると、友達とも大げんかというものをしたことがないのです。わたしは怒ると黙ります。だからまず口論になりません。口論ずきなラテン系旦那にとっては、それがどうも物足りなく自分が存在しないような気持ちになるそうです。なるほどと思うのですが、もう何十年もダンマリですから、今更口喧嘩と言われても、どうしたらいいのかわかりません。だからやっぱりダンマリしてしまうのです。
ダンマリするのは、「面倒臭い」が大きな原因です。怒鳴り合うのも面倒だし、わざわざ相手が傷つくような言葉を考えて言うのも疲れます。そのあと続く嫌なエネルギーも嫌いです。相手に言われることももちろん嫌ですが、わたし自身が言った時の方が、負のエネルギーが滞りやすいように思います。相手の言葉は首をすくめて通り過ぎるのを待てばいいけど、自分から発生したものは根っこが私にあるので、なかなか取りきれない気がします。
そんなダンマリの私ですが、一度大げんかをしたことがあります。それは小学校の時。十一人しかいない女子の間で派閥が起き、それがしばらく続いていました。緊張が高まって、ある日誰かが言ったんです。
「決闘しよう。」
私たちは話し合って、一番長い休み時間に校庭の隅に集まって決闘をすることになりました。ルールは二つ。首から上はぶたないこと。制服は破らないこと。
授業が終わると私たちはさっさと校庭に出て喧嘩開始です。始まりと終わりのある喧嘩なんてまるで格闘技のマッチのようですが、私たちは他にこの緊張をほぐす術を考えつかなかったのです。私は少人数のグループにいました。他の子達がどうだったのかはよくわかりませんが、私は相手グループのボスみたいな子と戦ったことは覚えています。彼女も私も休み時間によく男子とサッカーをしていたので、私たちは主に蹴り合いをしました。
痛いとも思わず、泣きもせず、私はただひたすら蹴ったりぶったりしていました。そして二十分が経ち休み時間終了のチャイムがなると、私たちはけんかをやめて教室に戻りました。そして何事もなかったかのように授業を受けたのです。二十分もぶったり蹴ったりしていたので息はちょっと上がっていましたが、私はなんとなく清々しい気持ちになっていました。「もうするべきことはした」という気持ちだったのかもしれません。ずっと溜まっていた鬱憤が晴れたせいでしょう。
そのあとその喧嘩のことは誰も触れませんでした。先生にも咎められることもなく、どの親からも苦情は来なかったように思います。そのあと二つのグループが仲良くなったというわけでもないけれど、派閥もなくなった気がします。
今五歳児(今日で!)を持ち、子どもの喧嘩に親が介入すべきか否かという話題が上がってきます。私はしなくていいと思うのです。もちろん物でぶったり、目を狙ったりなど危険な場合は止めなくてはいけませんが、ある程度の喧嘩はした方がいいような気がします。蹴られるって痛いし、負けたら悔しいです。でもこの絵本のお兄ちゃんのように、そこから優しさが生まれることもありますよね。
『ぼくたちはまたなかよしさ!』の作者紹介:
ハンス・ウィルヘルム(Hans Wilhelm)
1945年、ドイツのブレーメン生まれ。現在、アメリカ合衆国のコネチカットに住んで絵本の仕事に専念している。 古い農家に住み、納屋をスタジオ代わりに創作に励んでいる。アメリカに行く前はアフリカに長期滞在していた。 150以上の児童書にイラストも描いている。彼の本の200以上は20言語で翻訳され、また絵本をもとに80以上のテレビアニメシリーズが製作、世界中の子供たちに愛されている。ゴールデン・カイト賞他、国際的な素晴らしい賞を受賞している。
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