【絵本レビュー】 『チムとゆうかんなせんちょうさん』
作者/絵:エドワード・アーディゾーニ
訳:せたていじ
出版社:福音館書店
発行日:2001年6月
『チムとゆうかんなせんちょうさん』のあらすじ:
船乗りになりたくてたまらないチムは、こっそり船に乗り込み、船員として働き始めました。つらい仕事をこなしながら信頼をかちえていくチムでしたが、嵐で船は座礁してしまいます。とり残されたチムと船長が、これを最後と覚悟した時……。
『チムとゆうかんなせんちょうさん』を読んだ感想:
ボートのおじさん、男の子を置いて帰っちゃうんですか?
買い物に子供を連れて行って、一人で帰宅したお父さんを見ているような、そんな気持ちになりましたが、子供を乗せたまま航海を続ける船長さんにも驚かされました。
初めて大きな船に乗ったのは、大学の時夏の合宿で神津島へ行った時です。船で一晩寝たので二十時間くらいかかったのかと思いましたが、今調べたら竹芝桟橋から客船で十二時間なんだそうです。学生でお金がなかったので、もちろん二等です。枕はもらえましたが毛布はなくて、ただ畳にごろ寝でしたが、初めての船旅だったので私はワクワクしていました。
船はとても大きくて色々な客室やレストランもあり、映画でしか見たことのなかった大型客船は、ただ歩き回っているだけでも飽きませんでした。みんなで甲板に上がってカモメにかっぱえびせんをあげました。船の真横を飛んでいるカモメはまるで上から紐で吊るされているかのように見え、本物だとは信じられませんでした。遠くに見える島を見たり、他の船を見たりと最初の数時間はあっという間に過ぎました。
ふと見ると、同級生のMちゃんが暗い顔をしていて、全く楽しんでいる感じではありません。よく見ると青い顔をしています。
「気持ち悪い。。。」
Mちゃんは船酔いをしていましたが、車と違ってちょっと止まって休憩というわけにはいきません。ぐおんぐおんというエンジン音と船の腹を打つ波の音が急に大きく聞こえてきました。目を上げると360度海以外何も見えません。
「この船に何かあったら、どっちに向けて泳げばいいんだろう。。。」
急にそんなことが頭に浮かび、私は船が大海原のど真ん中を漂っているだけなんだという考えに飲み込まれそうになり、ちょっと心臓がドキドキしました。船酔いのMちゃんはまだあと10時間近く耐えなければなりません。車酔いばかりしている私には、その辛さが自分の事のように理解できました。
結局Mちゃんは地階の船室に行って寝る努力をすることになりました。もちろん彼女は帰りの便には乗りませんでした。島に着くやいなやMちゃんはお母さんに電話をして、まだ一週間も先だというのにお母さんに神津島から出ていたセスナ機を予約してもらい、それに乗って帰りました。一時間くらいで本島についたと後で聞きました。
船長さんは船が沈んだ時逃げずに船と共に沈む、という話を子供の時に父から聞きました。誇り高く船と一緒に海の泡となる方が、無事帰って家族といっしょになれるより大切なのだろうか、という考えはその時から変わっていません。
「。。。なくんじゃない。いさましくしろよ。わたしたちは、うみのもずくときえるんじゃ。なみだなんかはやくにたたんぞ。」
海は綺麗なだけじゃないですもんね。いざその時が来たら泣いても喚いてもどうにもなりません。私は死と直面した時静かに座って受け入れることができるのでしょうか。
『チムとゆうかんなせんちょうさん』の作者紹介:
エドワード・アーディゾーニ(Edward Ardizzone)
1959年生まれ。南アフリカのイラストレーター、作家、アーティスト。プレトリア大学で神学、シュテレンボッシュ大学でジャーナリズムの学士号を、ケープタウン・テクニカル・カレッジでグラフィック・デザインのディプロマを修得。また美術教師の資格を取る。聖職者、グラフィック編集者を経て、創作活動をはじめ、10代向の小説と絵本を多数出版。日本で紹介されている絵本に、「ふしぎなボジャビのき」「はるかな島」(ともに光村教育図書)など。ロンドン在住。