見出し画像

【絵本レビュー】 『おばあさんのひこうき』

作者:佐藤さとる
絵:村上勉
出版社:小峰書店
発行日:1973年2月

『おばあさんのひこうき』のあらすじ:

空にうかんだふしぎなあみもの。あみものじょうずなおばあさんがまきおこすとってもすてきな事件とは……。

『おばあさんのひこうき』を読んだ感想:

大好きな佐藤さとるさんと村上勉さんの絵本です。

家で一人で黙々と編み物飛行機を作るおばあさんを見ていて、なんだか私の母を思い出しました。

父が亡くなった途端、母は家をすっかりきれいにしました。家に山ほどあったベッドを含む医療関係の機械やもの、オムツ、ガーゼ、大量のタオルや絆創膏なども全部片付けました。父の普段着ていた服なども処分しました。それからは母と週末にスカイプをするたび、家のどこかしらかが変わっていました。庭に新しいフェンスをつけたこと。防水用のペンキで色も塗ったんだとか。次の週は庭に花と植木を植え、その翌週は、翌日着るセーターやズボンをかけておくハシゴ型のハンガーを手作りしていました。壁に角度をつけて立てかけられるように、両端は斜めに切ったと得意そうに報告してくれました。一人でホームセンターに行って材料を買って来て作るんだそうです。

そんな話を聞いていたので、このおばあさんが一人でせっせと飛行機を作っているのも楽に想像できました。きっと母も一人家でこんな風に組み立てていたのではないでしょうか。そう思うと、クスッと笑えて来ました。おばあさんが飛べたことを娘さんに報告できたらいいなとも思えました。母が飛んだら、私は様子を聞きたいですもの。

うちの母は編み物も料理も大したことはありませんが、計算が得意でした。算盤をしていたといつも自慢をしていましたから、父が倒れて寝たきりになった時にも、算盤を教えたらどうかと提案はしていました。でも母は「もう忘れちゃったから」とあまり乗り気ではなかったのです。ところが一年前、たまたま求人広告に算盤教室の受付募集が出ていて、なんと母は申し込みをしました。それだけで私は十分びっくりだったのですが、教室の管理者が母の算盤の技術に気づき、母は教室のアシスタントして採用されました。それには母もびっくりだったのですが、気がつけば母はこの一年でYouTubeを使いこなせるようになり、知りたいことはなんでも無料で勉強できるようになりました。教室はフランチャイズなのですが、その大元でオンラインコースがあるといえば参加もしているようです。スカイプをするたびに母は部屋に散らばった算盤の問題用紙を見せてくれます。まるで論文締め切り前の大学教授の部屋のようです。学生の頃は勉強が嫌いで、英語すらちゃんとしなかったという母が、今や毎日何時間も座って勉強しているのです。人って好奇心をくすぐられたり、目的ができると本当に集中できるようになるんですね。飛行学なんて知らないであろうおばあさんが、鼻先を上げ下げしてスピードを変えられるような構造にするなんて、純粋に好奇心ゆえなのではないでしょうか。

息子だってそうですよね。好奇心がわかないものはしない。子供は素直です。大きくなるにつれてしなくちゃいけないからしていることが多くなるけれど、それでも興味がないことをしているときはあまり気が入ってないですよね。結局私たちの原動力って好奇心なのかもしれません。歳をとったら好奇心が薄れるというのは本当ではありません。人間でいる限り、何かに興味は持つはずです。

とすると、はてさて私が今好奇心も持っているものってなんなんでしょう。絵本はその一つですね。絵本が私の心にもたらす影響にとても興味があります。日々成長する息子が、その時々でどんなことを感じているのかにも興味があります。どうして急に八十歳のおじいさんみたいに趣深いことを言ったかと思うと、生まれたばかりのチンパンジーみたいなことをしたりするのでしょう。いつかこの好奇心が満たされる日が来るのでしょうか。

あなたの好奇心を今くすぐっているのはなんですか。


『おばあさんのひこうき』の作者紹介:


佐藤さとる
1928年神奈川県横須賀生まれ。童話作家。旧制高校卒業後、市役所勤務を経て、1950年、神戸淳吉、長崎源之助らと同人誌「豆の木」を創刊する。1959年、『だれも知らない小さな国』を自費出版、その後講談社から出版され、同年、毎日出版文化賞、60年には日本児童文学者協会新人賞、アンデルセン国内賞受賞をそれぞれ受賞。以降ファンタジーの第一人者として活躍。 1967年、『おばあさんのひこうき』(小峰書店)で厚生大臣賞・野間児童文芸賞受賞。1988年、一連の創作活動に対し、巌谷小波文芸賞受賞。 その他主な作品に、「コロボックル」シリーズ(講談社)、「赤んぼ大将」シリーズ(あかね書房)、『おおきなきがほしい』(偕成社)など著書多数。


佐藤さとるさんの他の作品


いいなと思ったら応援しよう!

風の子
サポートしていただけるととても嬉しいです。いただいたサポートは、絵本を始めとする、海外に住む子供たちの日本語習得のための活動に利用させていただきます。