
【絵本レビュー】 『きっとどこかに』
作者/絵:リチャード・ジョーンズ
訳:福本友美子
出版社:フレーベル館
発行日:2020年8月
『きっとどこかに』のあらすじ:
ひとりぼっちのかわいそうな子犬には、帰る場所がありません。
自分のものと言えるのは、首に巻いた赤いスカーフだけ。
ある日、流れる川に落ちた一枚の葉っぱを追いかけ、
子犬は町に迷い込み…。
『きっとどこかに』を読んだ感想:
自分の家を探し続ける子犬。でも温もりを求める子犬が遭遇したのは、敵意と怒鳴り声でした。
どなりごえに うなりごえ。
「ばかないぬめ、なんてことを するんだ!」
こいぬは あとずさりしました。
うしろには かたくて つめたい ガラスが あるだけ。
もう どこにも いくところが ありません!
ちぢこまり、ぶるぶる ふるえ...
あんなにおとなしかった子犬が追い詰められて唸り、吠えます。本当に行き詰まって何もできないと悟った時、私たちもきっと吠えるしかないのではないでしょうか。でも吠えたとたん「いやないぬ」なんていうレッテルを貼られてしまいます。そんなこと、私たちにもありますね。
私が二十年前に日本を出たのは、私の家を探していたからだと思います。中学に入ったくらいから続いた父との喧嘩はエスカレートするばかりで、私にとってあの家はただの箱でした。今日は何がきっかけで口論が始まるのだろうと、毎日どこか心休まらず、家が安全な場所とはあまり言えませんでした。だから大学を卒業して海外に出るチャンスが見えた時、私は「私のおうち」を探して飛び出したのだと思います。
仕事がなくて一週間の食費が三千円くらいだったこともあったし、やっと「自分のおうち」を見つけたと思ったら敷金だけ騙し取られたこともありました。私が雇われた代わりに、面倒を見てくれていた人が解雇になってしまったこともありました。これが「生き延びる」ってことなんだと、身を以て体験しました。
海外に出たから大変だったとは思いません。きっと日本で家を出て一人で生きていっていたとしても、やっぱり騙されることもあっただろうし、大変なことも多かったはずだと思います。でもみんな「おうち」を探しているはずです。
「うち」ってなんでしょう。住む場所のことでしょうか。雨漏りしない屋根があって、寝れる場所があれば「うち」なんでしょうか。それなら私はいつでもありました。どこへ行っても、どの屋根の下でも私はどこが落ち着かずソワソワしていました。
「私のうちじゃない」
そんなふうに感じると、次の場所を探し始めました。
多分私にとって「うち」とは、私がいることに意味がある場所なような気がします。私がいてもいなくても、全てが変わりなく進んでいく。そこは私の「うち」ではないのかもしれません。喧嘩してもうっとおしくても、私には今「うち」があります。私はこのうちの一部分であることが感じられます。私がいなくては、同じうちではないと言える場所が見つかったこと、うれしく思います。もちろん、いらいらすることも多いですけどね。
みなさんにとっての「おうち」はなんですか。それがわかっていたら、少し探しやすいかもしれませんね。
『きっとどこかに』の作者紹介:
リチャード・ジョーンズ(Richard Jones)
イギリス、ウェスト・ミッドランズ州コヴェントリー生まれ。プリマス大学で美術を専攻し、大学院で学びながらエクセター中央図書館の児童書部門に10年勤務。その後イラストレーター、作家となる。デヴォン州に20年以上在住。好きなのは、海や川で泳ぐこと、森の中を歩くこと、オーディオブックを聴くこと、猫をなでること。鳥や動物の絵が得意。
日本の「カワイイ」文化に通じる繊細でガーリーな造形センス、抑制されていながらシックで美しい色彩感覚など、同じ英国のジュリー・モンクス、フィオーナ・ウッドコックと共通する作風と言えます。構図やデザインも素晴らしいですが、何といっても配色が素敵。線が柔らかく、色が比較的こってりと塗られているのも特色です。
リチャード・ジョーンズさんの他の作品
リチャード・ジョーンズさんがイラストを担当している絵本は他にも何冊かあります。
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