【絵本レビュー】 『サムとデイブ、あなをほる』
作者:マック・バーネット
絵:ジョン・クラッセン
訳:なかがわちひろ
出版社:あすなろ書房
発行日:2015年1月
『サムとデイブ、あなをほる』のあらすじ:
ひたすら穴を掘る男の子ふたり。サムもデイブも、がんばり屋。
掘って掘って、どんどん掘って、どこまでも掘ると、行き着いたのは……?
ふりだしに戻ったのかと思いきや、よーく見ると、ちょっと違うみたい。
一体、ここは……どこ?
『サムとデイブ、あなをほる』を読んだ感想:
次々と宝物を見過ごして行きながらあなを掘り続けるサムとデイブにハラハラしているのは、私だけなのでしょうか。「すっごいもの」を見つけるために掘っているはずなのに、あとちょっとというところで方向転換をしてしまうのは、なんだか人生の縮図を見ているようなのです。人のことならよく見えますが、自分のこととなると全く見えていなくて、きっと周囲の人はもどかしい思いをしているんだと思います。いったい私は幾つの「すっごいもの」を掘り損なったんでしょう。
日本を出てからもうう少しで20年が経とうとしています。この間に4カ国に住みました。そのうち地球を半周しての移動が3回。オーストラリアからまたヨーロッパに移住すると言ったとき、母もさすがに笑いました。でも私は本気で「同じ方向に掘ってばかりじゃダメだ」と思っていたのです。あと少し掘り起こしたらすっごいものがあったんだろうなと、私が考えられる方向転換でした。仕事もあったし、いろんなことがうまく行き始めていて、車も持っていました。そしてなにより、あと1年半いたら永住権がもらえるはずだったのです。なのに私は、「斜めに掘ってみよう」と思ってしまったのです。はたから見たら、明らかにチャンスを無駄にしている、もしくは故意にチャンスを避けているとしか考えようがないと思います。
でもサムとデイブを見ていると、何かを見つけることが目的というよりも、何があるんだろうという探究心が掘る原動力になっているように思うのです。そう考えると、私は「居場所」を探していたのかなと思います。生まれた家の居心地がずっと悪く、どこかにきっと私のいる場所があるはずと日本を離れ、私はいつも居場所を探していました。でも、もう少し頑張れば私の家になりそうというところで方向を変えてしまうのです。それまでいた場所に問題がある訳ではありませんが、このままい続けても何も見つけられないような気がして、違う方向に何かがあるような気がして動くのです。そんなことを続けて早20年。回りに回って気づいたのは、掘ったって掘ったって戻ってくるのはいつも自分。いつだって見つめ直さなきゃいけないのは自分で、家は探すものではなく造るものだと気づいたのです。自分で造って初めて自分の家になる。そんなことに気づくのにだいぶ大回りしたのですが、私はきっと私の人生がどこまで行くのか見たかったんだと思います。何があるんだろう、どんな風に続いて行くんだろうという好奇心を満たしたかったのではないかと、今は思うのです。そんなに掘り下げても、結局食べたいのは動物ビスケットとチョコレートミルク。ああ、わかるなあと勝手に腑に落ちた暑い午後でした。
『サムとデイブ、あなをほる』の作者紹介:
マック・バーネット(Mac Barnett)
1982年、アメリカ、カリフォルニア州生まれ。
“Billy Twitters and his Blue Whale Problem”など、絵本のテキストを何作も手がける。本書で、2012年ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。アメリカ、サンフランシスコ在住。
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