【絵本レビュー】 『すいかのプール』
作者:アンニョン・タル
訳:斎藤真理子
出版社:岩波書店
発行日:2018年7月
『すいかのプール』のあらすじ:
大きなすいかがぱかっと割れたら、うきわを持ってでかけよう。葉っぱのジャンプ台から飛びこんだり、ぶあつい皮ですべり台をつくったり、すいかのジュースをパシャパシャさせたり……。思い切り遊んだ一日はあっというま。でもだいじょうぶ。きっと来年もすいかのプールはひらくから。
『すいかのプール』を読んだ感想:
『すいかのプール』と聞いただけでその感触を肌に感じ、是非読みたいと思いました。
子供の時の夢は、すいかの半切りをまるまる食べることでした。もちろん大きなすいかです。大きなカレー用のスプーンで、一人でジャクジャク食べられたらどんなに幸せだろう、といつも考えていました。
父は食べたいものと読みたい本に関しては絶対「ダメ」と言わなかったので、私の願いも叶えてくれました。どこで探して来たのか、ずっしりと重い半切りのスイカを買って来てくれたのです。私はそれを見るなり、残った皮をどうしようかと考え始めました。ヘルメットを作ろうか。庭で鍋しにして遊ぼうか。お風呂で遊ぼうか。
そんな私に父が言いました。
「こんなにたくさん食べたら腹こわずぞ。輪切りにしてやろうか。」
輪切りのすいか。。。半切り丸々より魅力は減りますが、輪切りも悪くありません。そういえば、この間見た映画の中で男の子が自転車の車輪を棒で押して遊んでたっけ。すいかの皮でもできるかな。冠みたいになるかも。お面とか。またしても私は夢の世界に入り込んでしまいました。
とりあえず父と輪切りということで手を打ち、大きなすいかは冷蔵庫に入れられました。他の食べ物は全て脇に押しやられ、すいかがドカリと棚を一つ占拠して居座っています。その姿は神々しくさえ見えました。
そして待ちに待った夕食後。普段はスパゲッティに使う大きなお皿に厚さ五センチほどに切られた輪切りのすいかが、恭しく運ばれて来ました。その見事な色のコントラストはあまりにも美しく、赤と白と濃い緑のバランスに私は見とれていました。食べ物とは思えないような、スプーンを刺してしまうのが勿体無いような完璧さがありました。
夕飯を食べ、いよいよすいかに取り掛かります。真ん中から食べようか。端から攻めていこうか。少し悩んだ末、私は真ん中にスプーンを刺すと、くるくると円を描いていきました。皮を平行になるように、円で食べていこうと思ったのです。ジャクリ。完璧な赤い表面に丸い穴ができました。早速口に入れると冷たくて、甘すぎないすいかのジュースが喉を伝っていきます。その時でした。
「すいかのジュースに潜ってみたい」と思ったのは。
それで私は、すいかを持ち上げるとまず穴から向こうを覗いてみました。向こうを見ようとして、私の顔はすいかにピッタリついていたんだと思います。鼻に優しい甘い匂いがしました。さっきのすいかのジュースのこともまだ頭にあったのでしょう。私はそのまますいかを食べ始めました。ええ、もちろん食べづらいです。口の周りどころか顔全部がすいかに埋もれてびしょびしょのべとべと。でもこれがすいかのジュースに潜ることに一番近い方法だったのかもしれません。私はそのまま白いところギリギリまで食べました。Tシャツもびしょびしょでした。
食器を下げようとやって来た父が私を見てびっくりしました。私は輪っかになったすいかの皮を持ち上げると、その穴から父を見てニカリと笑いました。父は呆れたように私を見ると、「早く風呂入れ」と言って行ってしまいました。父が呆れたのも無理はありませんね。私はその時十二歳か十三歳。顔中ベタベタにしてものを食べる年齢はとっくに過ぎていたんですから。でも私はものすごく楽しかったんです。
ただ不思議なことに、その翌年から私のすいかへの情熱は消えてしまいました。夏に一、二回は食べたけれど、その後一人暮らしをするようになってもすいかを買おうとは思わなかったし、スペインですいかがとても安く買えても食べようとは思いませんでした。
でも戻って来たんです、数年前に。半切りのすいかを独り占めすることはほぼ不可能になりました。旦那も息子も大のすいか好きで、半切りを買っても一日で食べてしまいます。うっかりしていると彼らが全部食べてしまって、食べ損ねることもあります。
息子が果物屋の前で宣言しました。
「一人でこの丸いのぜ〜んぶ食べるんだ!」
「ああ、君もすいかのプールで泳ぎたいんだね。」そう思って私はニヤリとしました。我が家にもすいかプール開きの日がやって来そうです。
ちなみにどこかでちらっと読んだのですが、著者名のアンニョン・タルは「こんにちは、お月さま」という意味なんだそうです。可愛いですね。
『すいかのプール』の作者紹介:
アンニョン・タル
自然豊かな学校でヴィジュアルデザインを学び、現在はイラストレーター、絵本作家として活躍。
アンニョン・タルさんのその他の作品
韓国では他にも何冊か出版されているようです。翻訳されるのが楽しみですね。
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