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【絵本レビュー】 『14ひきのさむいふゆ』

作者/絵:いわむらかずお
出版社:童心社
発行日:1985年11月

14ひきのさむいふゆ』のあらすじ:

ねずみの家族が住む森に、寒い冬がやってきました。ストーブの燃えている暖かい部屋で、ねずみたちはなにを作っているのでしょうか。


14ひきのさむいふゆ』を読んだ感想:

ベルリンでも一週間前初雪が降りました。二日ほど降ったので積もるかと期待しましたが、三日目に気温が上がりみんな溶けてしまいました。うちの五歳児は雪合戦をしたがっていたのですが、もうちょっとお預けです。

冬になると私は日本が恋しくなります。日本が恋しいというより、関東のカラッとした青空が恋しいのです。寒いけれど陽が照っていて眩しいくらい。そんな冬が懐かしいです。ベルリンの冬は長く暗いです。ひどい時は一、二週間陽の光を見ないこともあります。だから日中陽が差すと、道で人々が目をつぶって立ち止待っているのをよく見かけます。まるで宇宙船に連れて行かれるかのように、道の陽だまりのあちこちで人がただまっすぐ立っているのです。初めて見た時はびっくりしましたが、今は私も光の輪に加わります。

ベルリンに来た十年ほど前の最初の冬、私は生まれて初めてマイナス十五度の世界を体験しました。ユニクロのヒートテックTシャツを二枚着てもまだ寒く、足にはしもやけができました。あまりに寒くて「極寒用」と書かれていたコートを買いました。二重レイヤーで重く肩が凝りましたが、寒さには替えられません。旦那のメガネは凍りました。まつげも凍りました。口も動かしづらくなり、何だかいつもニッと笑っているよう。マイナス十五度の世界は寒いというより、痛いといった方がいいと思います。

雪もたくさん降りました。アスファルトは凍り、角のスーパーへ行くにも倍以上の時間がかかります。おしゃれな靴もしまいこんで、靴底がデコボコした山用ブーツを買いました。うっかりすると滑って転ぶので、私は下ばかりを向いて歩いていると、街のどこからか「シャイゼ!(クソ!)」と怒鳴る声が聞こえます。誰かがどこかで転んだのでしょう。そんな道を物ともせずジョギングする人もいて驚きましたけどね。

高校生の時、冬になると私はよくジグソーパズルをしました。特に十二月になるとしたくなって、毎年いくつか買いました。一番好きだったのは、大晦日でした。彼氏もいなかった私は十二時に母と花火を見るのが慣例となっていましたが、それを待つ間一人で黙々とジグソーパズルをするのでした。時に大晦日スペシャル番組を見る母の脇で、時に自分の部屋で大好きだったFMラジオ番組を聴きながら。通りはとても静かで、人がいなくなってしまったのではないかと思うくらいでした。心配した私は、時々立ち上がってカーテンの隙間から近所の様子を覗いてみました。窓に人影が見えると、何だかホッとしたものです。そしてまたパズルに戻るのでした。

真夜中十分前くらいになると、母か私の気づいた方が声をかけ、部屋着にコートを着てマフラーを巻いて近くの橋の上まで歩きました。近所の人たちもポツリポツリとやって来ます。やがて暗闇に一本の光が伸び、大きな花を咲かせます。年末の花火です。
「たまや〜」
母が小さく言うと、橋のどこかで誰かが
「かぎや〜」と応えることもありました。
花火はかなり遠いのに、震える空気の振動が私たちのところまで伝わって来て、ああ、新しい年が来るんだなと感じました。

五分ほどの花火ショーが終わると、周りにいた人たちは「明けましておめでとうございます」と言い合ってそれぞれ家に帰って行きました。母と私も仰々しく頭を下げて、「今年もよろしくお願いします」と言いました。それから家に帰って、昼間買っておいたインスタント麺を食べるのです。普段私は父に禁止されて食べられなかったのですが、大晦日の時は母がこっそり買っておいてくれるのです。一年に一度の楽しみは、新年をカップ麺で迎えることでした。

行く年来る年の除夜の鐘を少し聞いた後、私はまたパズルに戻ります。シーンという音が聞こえそうなほど静かな夜が私は大好きでした。過去でもない、未来でもない不思議な時間だったと思います。

うん、やっぱり私は日本の冬が恋しいのかもしれませんね。


14ひきのさむいふゆ』の作者紹介:

いわむらかずお
1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒。主な作品に『14ひきのあさごはん』(絵本にっぽん賞)など「14ひきのシリーズ」、エリック・カールとの合作絵本『どこへいくの?To See My Friend!』(童心社/アメリカ、ペアレンツチョイス賞)、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社/サンケイ児童出版文化賞)、『かんがえるカエルくん』(福音館書店/講談社出版文化賞絵本賞)、「トガリ山のぼうけん」シリーズ、「ゆうひの丘のなかま」シリーズ(理論社)などがある。98年栃木県馬頭町(現・那珂川町)に「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開館、絵本・自然・こどもをテーマに活動を続けている。栃木県益子町在住。

 
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