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【絵本レビュー】 『ふしぎなふうせん』

作者:中川ひろたか
絵:布川愛子
出版社:鈴木出版
発行日:2017年7月

『ふしぎなふうせん』のあらすじ:

落ちていた風船を拾い、ふくらませたおじいさん。すると風船は機嫌よく歌いだしながら、おじいさんごとふわりと浮きました。「これはたいへん」と、おばあさん、まごむすめ、犬たちが...


『ふしぎなふうせん』を読んだ感想:

ほのぼのとした絵に惹かれて手に取りました。読み進むうちに「『おおきなかぶ』のリメイク?」と思い始め、息子からのツッコミを待っていましたが、気になったのは私だけだったようです。でも最後のネズミは全く予想外で、思わずニヤニヤ笑ってしまいました。

「暖簾に腕押し」「糠に釘」
私の父はこのことわざをあまりいい意味では使っていませんでした。でも今子供を持ってからふと振り返ると、母の戦略がまさにこれだったのです。ピリピリしていた思春期にも母とあまり喧嘩にならなかったのは、きっと母の叩きがいのないぬらりくらりとした態度だったのです。

「そんなこともわかんないの!バカじゃない?」
イライラ高校生の口調は鋭く刺さります。でもいつも返ってくる返事は、
「いや〜ん、あんまりバカバカって言うと本当にバカになっちゃうじゃ〜ん」でした。

これにどうやって腹を立てられましょうか。高校生の私はただ呆れ、返す言葉もなく、でもさっきまでお腹の中にあった黒々としたものもそそくさと逃げて行っていたのです。

「戦意を喪失させる」
これがポイントです。特に何を言っても「いや」しか言ってくれない年齢のうちの息子に。

「お風呂はいるよ」
「は〜いらない」

「公園行くよ」
「い〜かない」

「もう家に帰るよ」
「か〜えらない」

この妙な言葉の伸ばし方といい、すでにこめかみが脈打っているのですが、ここでイライラして怒ってしまうと権力争いになってしまうのです。親がほぼ全勝するのですが、実を言うととても後味が悪いです。先日旦那もポツリとそう漏らしていました。やっぱりそうだったんだ。

「お風呂はいるよ〜」
「や〜だよ」

今日も来たか。私は深呼吸をしてから、
「え〜、入らないの〜。ちょっとどんな感じ?」
そう言って、彼の頭や身体をクンクンします。
「う〜ん、汗と涙とトマトソースの匂いがするねえ。お、待てよ。これは
S先生の匂いかな。ああ、N君の匂いもするねえ。」
「え?」
「このまま寝ちゃったらさ、お布団がこんな匂いになっちゃうねえ。ひ〜。ママのお布団には来ないでよ〜」
足をバタバタさせながら大げさに自分の毛布や布団を引っかき集めて隠す私。
「え?え? パパ〜、お風呂エクスプレス!」
息子は走って行ったお風呂場から旦那に説明している声が聞こえます。
「ベッドがね、いろんな匂いになっちゃうんだよ。だから早く早く!」

まだこんな理にかなわない説明が効く年齢でよかったです。なので公園から帰りたくない攻撃が来た時は、最近お気に入りのピンクパンサーダンスで、公園からじりじりと退出して行くのですが、笑いを堪えつつの困った顔をしながらとりあえず一緒に出てくれます。あとはそのまま後ろ歩きで家に帰る変な母子なのでした。

力には力を持って戦うのは疲れます。なので私は母を見習って、つかみどころのないのらりくらり技を頑張ってマスターしていきたいと思います。



『ふしぎなふうせん』の作者紹介:


中川ひろたか
1954年埼玉県大宮市生まれ。日本ではじめての男性保育士として、5年間千早子どもの家保育園に保父として勤務。1987年、みんなのバンド「トラや帽子店」を結成。リーダーとして活躍。「みんなともだち」「世界中のこどもたちが」などは、たくさんの子どもたちに歌われている。1995年「さつまのおいも」(童心社刊)で絵本デビュー。絵本「ないた」で日本絵本賞受賞。絵本作家、詩人の他にも、ラジオDJなど、多方面で活躍中。


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