【絵本レビュー】 『コックのぼうしはしっている』
作者/絵:シゲタサヤカ
出版社:講談社
発行日:2011年5月
『コックのぼうしはしっている』のあらすじ:
町でいちばん人気のレストランで働く、店いちばんのウソつきコック。
細かくつぶしたハーブをこっそり顔にぬり、「風邪を引いた!」などと言って、今日も首尾よく仮病を使います。
ところが、いつものようにいすを並べ、ごろっと昼寝をしようとすると、「あたしゃ、この目で見ていたよ!」と、天から声が!?
『コックのぼうしはしっている』を読んだ感想:
「嘘も方便」
父はよく言っていました。わざわざ全部説明する必要はないのだから、相手を傷つけないようにつく嘘ならいい、そういう理論でした。だから本当は父が怒って友達と遊びに行ってはいけないと言ったのに、電話をするのは私で、しかも「親戚の家に行くから」だの「お腹が痛い」だの父の都合のいいようなことを言わされていたので、私はいつも違和感を感じていました。
「どうして、お父さんがダメって言ってるから、って言っちゃいけないんだろう」
友達との遊ぶ約束を破ることはもちろん嫌だったけれど、それより何より嘘をつかされることの方が私にとっては理不尽なことだったのです。
それである夜、父がまた怒って翌日の約束をキャンセルすることになり、私は友達に電話をしていました。「風邪をひいたから」とか言うように言われていたのですが、私は嘘にうんざりしていたので、出てきた友達に言ったのです。
「パパが怒って明日は遊んじゃダメって言われた。」
友達はただ「わかった」と言って電話を切りましたが、振り返ると怒り沸騰した父が立っていました。
「なんでそんなこと言うんだ!」
「だって本当のことでしょ。」
ドッカーン!!!
こっぴどく怒られたけど、私の中では間違ったことをしたと言う認識はなかったので、父を睨んだまま黙っていました。父の怒りを煽ったことは言うまでもありません。
絵本のコックさんは自分の失敗や怠け癖を隠すために嘘をついているのでちょっと違うと思いますが、「他人を傷つけないための嘘」はつかない方法があるように思います。そもそも「他人を傷つける」かどうかどうしてわかるのでしょうか。あくまでも言う側が受け取る側の気持ちを想像したものである気がします。
それが「気遣い」と言う人もいるかもしれませんし、そこが日本人のいいところと考える人もいるかもしれません。でも私の経験では、きちんと本当のことを言った方が良い信頼関係が築けるような気がするのです。全部何から何まで言う必要はないけれど、嘘をつく必要もないと思います。
子供達が小さい頃、私は他の二人のお母さんたちと良く会っていました。グループチャットもあって、一緒に公園へ行ったり、お互いの家に行ってご飯を食べたりしていたのですが、二人のお母さんたちが意見の違いから離れてしまい、グループは解散してしまいました。私はそれぞれと会っているのですが、二人はもう話もしていません。息子の誕生日に招待しても、必ずどちらかは来ない、という調子です。
最初は会う日が重ならないように気をつけながら二人と会っていたのですが、少し続けていると疲れてしまって。それで二人に言うことにしたのです。
「ごめん、明日は〇〇ちゃんを面倒見てって頼まれてるんだ。別の日でもいい?」
もしここで「〇〇に会ってるの?」とかもう一方のお母さんの悪口などが始まったら、それはもう私の問題ではないと思うのです。でも私ができることは正直であること。今の所どちらの側からもそのようなコメントは出ていません。私もお互いの家族の様子を話すこともありませんが、そんなことをする必要もないと思っています。伝達屋は私の仕事ではありませんからね。
できないときはできない。疲れていて今日は会えないと言うのもありだと思います。「会おうって約束したのだから、会わないといけない」と思うかもしれないけれど、疲れているのを無理して来てもらった方が申し訳ないし、そこを無理強いして来させるような友達に、私もなりたいとは思いません。
気遣いや思いやりは大切だと思うけれど、自分の気持ちや考えを大切にすることも、相手を思いやることの一つになるのではないかと思います。
『コックのぼうしはしっている』の作者紹介:
シゲタサヤカ
1927年東京生まれ。蒲田工業高校卒業。「おしゃべりなたまごやき」(福音館書店刊)で文芸春秋漫画賞、国際アンデルセン賞国内賞、「はるですよふくろうおばさん」(講談社刊)で講談社出版文化賞受賞。「たぬきのじどうしゃ」(偕成社刊)「みみずのオッサン」(童心社刊)などの作品がある。