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(連作:明日は撮影)母とふたりのヌード撮影

 明日は母と一緒のヌード撮影だ。二人で写真館に行く。恥ずかしさはあるけれど、今は前向きな気持ちだ。

 二十歳の誕生日が近づいた頃に、話があると母に呼ばれた。何事かと緊張して話を聞いてみると、二人で裸の写真を撮りたいという。
 は?
 二人でヌードって、意味がわからない。私は太めで、お腹もぽっこりと出ているし、少しもいいところがない。ヌード以前に写真は苦手なのだ。
 記念に撮りたいのよ、二十歳になったあなたと。母が言う。誰がそんな写真みて喜ぶの?ありえないでしょ。二十歳の記念ヌードって、昔流行ったらしいけど、ただの黒歴史になるだけとしか思えない。振袖で撮る写真だって嫌なのに。

 私の話を聞いてほしいの、真面目な話だからと、母はミルクティーと焼き菓子をテーブルに置いた。
「初めて話すけど、私ね、昔、ヌード写真を撮ってもらったことがあるの。一度だけ」
「え?知らなかった。なんで? 二十歳の記念に?」
「そうじゃないの。見てくれるかしら?その写真。見てほしいの」
「見たい見たい」
 母は、きれいなカバーのついた写真台紙を持ってきた。七五三や成人式の記念写真を入れるような大きさの、クリーム色の台紙だ。
「開けてみて」
 私はドキドキしながら、それを開く。母の若い頃のヌード……。
「わぁ!素敵。これって?」
「マタニティヌードっていうの」
 写真の母は、全裸で大きなお腹をやさしく両手で支え、幸せそうに微笑んでいる。神々しささえ感じる。いい写真だ、と思った。
「これ……」
「あなたがお腹にいるときの私。二十七歳のとき」
 私は少し、感動していた。いや、少しではなく。裸であることで、生命の神秘のようなものがよりストレートに伝わってくる。これ、母が、生まれてくる私のために撮ったんだ。私は理解した。
「素敵な写真ね」
 思わず優しい声になる。
「おっぱいも丸出しで、よく撮ったと思うけど、撮ってよかったんだって思っているの」
「ありがとうお母さん」
「え?」
「私のために残してくれたんでしょう?この写真」
「そうね。半分は自分のため、半分はあなたのためかしら」

「わかった。一緒に撮りましょう。このお腹から出てきて、二十年たった私と一緒に」
「本当にいいの?やってくれる?」
 母は泣きそうだ。実は私も。涙をこらえる。
「私からお願いするわ。お母さん、一緒にヌードを撮ってください。すごく恥ずかしいけど、ありのままを撮ってもらいましょう」
「四十七歳になってあちこち弛んでいる母と、ぴちぴちの二十歳の娘の裸ね」
「そんなに弛んでいるの?」
「弛むわよ。でも、うまく綺麗に撮ってくれると思うから」
「生まれたままの姿じゃないと意味がないんだって、これを見て思った」
「ありがとう」
 私はもう一度、若い頃の母の写真を見る。幸せそうなヌード。素敵だ。
 昔の母に、私はありがとうと語りかける。
「決まりね。写真館予約するから。お願いね」
「わかった」

 撮影は明日だ。やっぱり緊張するし、恥ずかしい。でも、私はヌードになることに前向きだ。

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