サイレントの8ミリ映像で母が脱ぐ
写真店で受け取ってきたDVDをプレーヤーにセットし、再生ボタンを押す。テレビよりも幅が狭い比率の画面が現れる。四隅が丸くなったモノクロの映像だ。キズや汚れがあり、古い映像の雰囲気がある。雰囲気ではない、実際に古い。半世紀以上昔のものだ。
電車で一駅の距離にある実家の、父の書斎だった部屋に保管されていた古い8ミリフィルムを、DVDにしてもらった。物置にあった8ミリ映写機はランプが切れていて使えなかった。両親ともに亡くなって空き家のようになっている家を整理しなければならないのだが、こうして何かを見つけるたびに脱線するから、なかなか片付けが進まない。
フィルムの最初の方を引き出して、ルーペで見たけれど、雲のようなものが写っているだけで、よくわからなかった。中を確かめないまま写真店に持ち込み、DVDにしてもらった。
空を写した場面が二、三秒あり、すぐに人物に切り替わった。若い女性が大きく写っている。上半身。窓際にいる様子で、背景は明るく飛んで白っぽく、撮影場所はわからない。カメラを三脚で固定しているのか、画面は揺れることなく安定している。
若い女性は母のようだ。すごく若い。もしかしたら結婚前の姿かもしれない。モノクロなので色がわからないが白っぽい明るい色のブラウスを着て微笑んでいる。お母さん可愛いじゃない、と思わず口に出た。私は一人でテレビモニターと向き合っている。夫はすでに亡く、子供たちも独立している。
父は映像機器が好きだった。カメラや交換レンズをいくつも持っていたし、8ミリカメラにも凝っていたようだ。私たち子供の運動会や家族旅行の映像はよく見た覚えがある。ただ、書斎に仕舞い込まれていたこのフィルムはおそらく初めて見るものだ。
画面の中の母はこちらを見て楽しそうに何か話している。撮影者はおそらく父だから、父と話しているのだ。古い8ミリで音声は無い。それにしても笑顔が可愛い。楽しそうだ。
父が何か言ったようで、母が「なに?」という感じで聞き返している。そして大きく笑う。手を降ったり、両手でバツ印を出したり。表情が豊かで、とても素敵だ。ここでカットが変わる。
同じ場所だ。母は微笑んでいる。こっくりと頷いて、真顔になる。目はカメラを見ている。つまり父を見ている。これも素敵な表情。幼い頃の記憶にある母の表情と同じ。同じ人なのだから当たりまえか。
画面の中の母は、カメラを見ながらブラウスのボタンに手をかける。照れ笑いをしながら何か言っている。上からボタンを外していく。えっ?
ボタンを外し終えた母はブラウスの前を開いたり閉じたりして笑っている。下着と、その中の胸の膨らみが眩しく見える。なんだか照れる。見てはいけないフィルムだったのかもしれない。胸がどきどきしてくる。
母は真顔に戻り、ブラウスを脱ぐ。下着姿の上半身が写っている。口を閉じたままこちらを見ている。可愛い。
母の右手が下着の左のストラップにかかり、肩から外れる。いたずらっぽい笑顔。幸せそうな笑顔だ。
フィルムはここまでだった。数分間の夢のような映像。きっと父の宝物だったのだ。これを見ることができて、嬉しいような、切ないような複雑な気持ちになった。妹にも教えて、私たちの可愛いお母さんを一緒に見ようと思う。
その前にもう一度、一人で見よう。私はリモコンを操作して、最初の雲のカットから見始める。
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