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文芸部の素敵な先輩と図書室で抱き合う

 文芸部の河田先輩。ひとつ歳上なだけなのに、私よりもずっと大人びていて素敵だ。背は高くないけどいつも姿勢がいいので凛とした雰囲気がある。顔つきは地味でメイクも先生に注意されるほど濃くはないけど、綺麗な人、というのが私の思いだ。そして文学や小説にも詳しい。私が興味をもっている幻想小説などについても、顧問の先生よりも詳しいところもあって、頼りになる憧れの先輩、私の女子校生活にとっての特別な存在と言っていい。

 その河田先輩から告白された。

 いえ、告白じゃない。かもしれない。でも、告白と思いたい。私は先輩が好きだから。文芸部が使う放課後の教室で、他に誰もいない時。
「赤井さん、私たち二人、もっと親密な経験が必要だと思うの。文学的に」
「文学的に?」
 私たちが読んだり、書こうとしているものは、ほかの部員の子たちと少し違っていた。少しじゃないかもしれない。顧問の先生が眉をしかめちゃうような、エロティックな幻想小説も好んで読んでいる。
「経験をもとに、魅力的な作品が書けそうなの。……ごめんなさい。嘘よ」
「え?」
「嘘のような本当のような。ごめんなさい。私何言ってるんだろう」
「先輩」
 私は言った。
「なに?」
 先輩の宝石のような瞳が私を見ている。
「私、先輩が好き」
「え?ありがとう。嬉しい」
「先輩が望むことは受け入れます。私のことも受け入れてほしいです。親密な経験、してみたい」
「赤井さん……」
 そうだ。尊敬とか憧れとか、それも間違っていなかったけど、言葉に出してみると、好き、がいちばん合っていたのだと思う。好きなんだ。公認カップルになれたらいいな、素敵だなと思う。

 告白されたんじゃなくて、告白したのかしら。どっちでもいいか。

 放課後の図書室。奥の角を曲がった郷土資料や百科事典が並んだ棚のあたりにはほとんど人が来ない。私と河田先輩は向き合って立っている。
 私は両手を後ろにまわした状態で、手首を縛られている。柔らかなスカーフで先輩が優しく、そしてしっかりと縛ってくれた。
「どう?」
「どきどきしてます。胸の音が聞こえるくらいに」
「こういうの、好き?」
「先輩が好きなことなら」
「可愛いわ。あなたに出会えたのは奇跡のよう」
「うれしいです」
 先輩の綺麗な指が私に触れる。腕を撫で、顎に触れる。身体がぴくんと反応する。
 先輩の指は私の胸のふくらみや脇腹にも触れてくる。甘い息が漏れてしまう。
「可愛い」
「先輩も、素敵です」
「目を閉じて」
「はい」
 先輩の腕が私を抱きしめる。私もしたいけど、手の自由が奪われている。気持ちいい。ずっとこうしていたいと思う。涙が出そう。
 先輩のくちびるが、私の口に触れた。私にとってはじめてのキス。くちびるは冷たい?温かい?どきどきしてわからない。先輩の舌が入ってくる。ちょっとだけわたしの舌に触れる。とろけてしまいそう。すぐに先輩は離れた。
「ありがとう」
「先輩も。わたし、溶けちゃいそう」
「可愛い」
 スカーフが解かれる。私は先輩を抱きしめる。先輩は私の髪を撫でてくれる。校内にチャイムが鳴る。
「閉館しまーす」
 司書の先生の声がする。先輩は私の頬に軽くキスをして、手を繋いで書架の間を出る。私は先輩の手をぎゅっと握る。気持ちをこめる。

 閲覧室の机の間を歩いて抜け、受付の前を通る。手を繋いだまま。司書の女の先生が片付けをしている。
「さようなら」
 先輩が声をかけ、私は黙礼をする。
「河田さん」
 先生が手をとめて、先輩に話しかけてくる。
「はい」
「ほどほどにね」
 先生は私たちに微笑みかけ、片付けに戻った。
 

 





 

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