駅前の写真店に、セルフヌードのプリントを受け取りにいく
学校帰り、美紀は駅前の写真店の前にいる。ガラスの扉に映る自分の制服姿をチェックする。先客の親子連れが出てくるところだ。美紀は扉を開き、支えておく。
「ありがとうございます」
若い母親が笑顔を向けてくれる。
「ばいばーい」
手を繋いだ幼い女の子が手を振る。
「ばいばい」
美紀も笑顔でこたえる。
「いらっしゃいませ」
安売りのフィルムや使いきりカメラが並ぶカウンターの前に立つ。いつも店番をしているエプロンをした三十代くらいの女性だ。明るい笑顔になっているのはさっきの親子に応対した余韻かもしれない。
「お願いします」
美紀は同時プリントの注文控えを差し出す。
「はい、少しお待ちください」
店員の女性は控えを見ながらカウンターの下を探り、紙の袋を取り出してカウンターに置く。
「こちらですね」
伝票のついた袋からネガ袋を出し、開く。美紀は少しだけ緊張する。
「こちらご確認をお願いします」
ネガ袋に挟んであるプリントの束を出しながら美紀に示す。裸でカメラを持つ美紀の写真、カメラで顔が隠れているセルフヌードだ。昨日の午後に、自宅の洗面所で裸になり、自分で撮った。店員の女性が美紀の姿と手元の写真を見比べているのが気配でわかる。
「はい、間違いないです」
店員は美紀に笑顔を向けてプリントを袋に収める。
「こちら同時プリントのサービス券です。次回お使いください。入れておきますね」
お金を払って同時プリントの袋を受け取る。
「ありがとうございました。あの、」
「はい?」
「素敵な写真ね」
「ありがとう」
美紀はプリントの袋を鞄に収め、店を出る。
帰宅した美紀は自室に鞄を置いてから洗面所で手を洗い、キッチンで冷蔵庫からアイスコーヒーが入ったポットを出す。
「お菓子あるわよ。マドレーヌ」
母の声に、いらないと答える。
大きめのグラスにたっぷりのコーヒーを入れて、自室に戻る。鞄から写真の袋を出し、机に置く。一呼吸おいて、プリントを取り出す。
撮った順に十二枚の写真を机に並べていく。昨日自分で撮った写真だ。きれいに撮れていると思う。写真店の女性が素敵と言ってくれたのはどういう意味だったのだろうと、改めて考えてみる。
フィルムの性能か、プリントの技術によるものか、肌の色は本物よりも美しくプリントされている。ポーズは自分で鏡を見ながら決めた。うまくいっている写真もそうでないものもある。ただ、彼女は全部の写真をじっくりと見たわけではないはずだ。自ら裸身を撮影する行為そのものが素敵だ、と言いたかったのかもしれない、と美紀は考えた。
撮ったのは昨日の事だが、もっと前のようにも思えるし、つい先ほど撮ったばかりとも思える。撮ることを決めてからプリントを受け取るまでがひとつの撮影行為だと考えれば、この時間の感覚も外れていないのかもしれないと美紀は思う。
アイスコーヒーを飲みながら十二枚の写真を見比べ、一番気に入った一枚を選ぶ。少し斜めになって、背中からお尻のラインが綺麗に出ている写真だ。机の引き出しから日記帳を出し、その一枚を貼り付ける。
残った十一枚を元の袋に入れ、日記帳と一緒に引き出しに戻す。美紀は立ち上がり、着替えのために制服を脱ぎ始める。
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