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体育館の小部屋で、はだかになる

 体育館のステージ横に、小さな物置のような空間がある。他にいくつか広めの倉庫もあり、体育の用具や折り畳みのテーブルなどはそちらに保管されていて、この物置部屋にあるのは式典に使う演台と、中身のわからないいくつかの箱くらいだ。
 亜美はある日の放課後、誰にも見られないように注意しながらこの部屋に入り、奥の壁際の床を丁寧に磨き上げた。体育館ではバドミントン部と体操部が練習をしている。ステージ上で体操部の一年生がマット運動の練習をしている声がすぐ近くに聞こえる。
 亜美は壁際にあった演台を動かして、壁との間に空間をつくった。その床を磨いた。入り口から見ると演台が壁となって、目隠しになる。亜美はその空間に入って仰向けに寝た。無機質な低い天井が見えた。目を閉じた。運動部員たちの声と足音が聞こえるが、この空間には静寂があるように亜美には思えた。
 しばらくそのまま寝ていたが、誰も現れず時が過ぎて行った。亜美は立ち上がり、演台を動かしてもとの位置に戻し、部屋を出た。

 翌週、同じ曜日の放課後に、亜美は再び体育館に来た。亜美は演劇部なので、体育館にまったく用がないわけでもない。体育館のステージは文化祭では演劇の舞台としても使われる。この場にいる理由が無いわけではない。亜美は物置部屋の扉をそっと開き、人がいないのを確認してから中に入り、扉を閉じた。演台を動かして、床を磨いた。
 亜美は周囲の音に集中する。体操部とバドミントン部の子たちの声と音がするだけだ。大きく息を吸って、吐く。上履きとソックスを脱いで裸足になる。制服のブレザー、スカートを脱ぐ。
 もう一度周囲の気配に集中する。襟元のリボンを取り、シャツを脱ぐ。下着もとって裸になった亜美は磨いた床に仰向けに寝て、目を閉じる。緊張する。そして、静かに興奮する。

 まだ小学生のころ、亜美の家の庭に、組み立て式の物置小屋があった。金属のパネルを組んで作る既製品だ。父親が組み上げた。まだ出来たばかりで中にあまり物がない頃、家族の留守中に一人で中に入った。扉を閉じると中は暗くなったが、パネルの隙間から光が漏れ、あやしい雰囲気が強調されるようだった。亜美はどきどきしながら服を脱いで裸になり、物置の床に寝た。波型に加工された鉄板の床の冷たい感触が、亜美を悲劇のヒロインにした。
 テレビドラマなどで、女性が理不尽に、暴力的に服を剥ぎ取られるような場面にときめいた。いけない感情なのではないかという思いはあった。ただ、服を取られて、その後どうなるのかは亜美の想像の外にあった。わからなかった。だから、それが亜美にとっての大ピンチのゴールだった。攫われて、服を剥ぎ取られ、冷たい床に寝かされる。物置の中でエッチな想像が追いつかないもどかしさを感じながら、いけない遊びをしている背徳感を味わった。

 その日以来だった。高校生となった亜美は、服を剥ぎ取られたヒロインの危機について理解できている。そして、あの日と同じ遊びを学校内でしてみたくなった。家族以外は扉を開けることのない庭の物置と、体育館の中の物置部屋では環境が違いすぎる。ただ、それだけの刺激が必要なのだと亜美は考えていた。何かに決着をつける必要があると思った。
 部屋の外で聞こえる足音に怯えながら、裸の亜美はその時間が過ぎるのを楽しんだ。一度だけ左の乳首をつまんでみた。その後は動くことはやめた。

 どのくらいの時間が経過したのかわからないが、ぎりぎりまで我慢して、亜美は遊びを終わりにした。立ち上がり、急いで服をつけ、部屋を整え、外に出た。運動部員たちの声が近く、大きくなった。現実に戻ってきたのだと亜美は思った。呼吸を整え、静かに体育館を後にした。 

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