【017】EVは速く走らなくても面白い
自動車評論家・片岡英明さんインタビュー
作家の書棚や料理家のキッチンと同じく、自動車評論家のマイカーって、ちょっと知りたいことのひとつ。私と同じ電気自動車(EV)の「ホンダe」に乗っているモータージャーナリストの片岡英明さん(67)に話を聞かせてもらった。
「EVは、静かで快適で瞬発力があるのが魅力ですね」
自動車史に造詣が深い片岡さんは、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員やクラシックカーイベント、ミニカーなどのアドバイザーを務めている。EVとの関わりが増え始めたのは、2000年代だそうだ。テスト車の試乗を頼まれたり、EVレースの手伝いをするように。
2008年の洞爺湖サミットでは、EVで東京から北海道まで走った。当時はまだ充電設備が少なくて、コンビニで自販機用のコンセントを借りたりしたという。その後も無充電ギネス記録挑戦などに関わってきた。
マイカーをEVにシフトしたのは2014年。国内販売が始まったばかりの「BMW i3」をいち早く購入。「これが面白かった」。ワンペダルドライブを採用した世界初のモデル。アクセルペダルの加減だけで車をコントロールできる。
「EVは、速く走らないと面白くない、というようなことがない。運転にゲームみたいな感覚がある。乗るたびに発見があって新鮮です」
2020年にホンダeが発表されるとすぐ、開発リーダーに「これ買うよ」と伝えたとか。気に入ったのはデザイン。ワンペダルが使える上に、リア駆動ということも動機になったという。
「操っている実感がする。i3もそうだったけど、リア駆動だと背中から押されている感じがあるでしょう」
いや、私もホンダeに乗ってはいますが、シロウトなので…。でも言われてみれば確かに。独特の軽快感は、そういう理屈だったんですね。
これまで10年以上EVにかかわってきたが、これからの10年で一気に変わる、と予測する。「EVは食わず嫌いの人が多い。一回乗ったらEVの良さはすぐにわかる」
EVシフトには懐疑的な声もある。電源構成、電池の価格上昇、充電インフラの不足など、懸念材料も多い。
「たしかにそうです。でも、日本人は課題を与えられたら解決する能力に長けている。ネガティブなイメージはすぐに消えていくと思いますよ」
(夕刊フジ/2021.12.23)