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ある日、悪夢を所有してしまったら - Roadsteadと黒沢清『Chime』

15000円を払って悪夢を所有した。

前回の記事で今年は黒沢清イヤーになるということ、その中でも新しいプラットフォームRoadsteadで展開される『Chime』が気になるということを書いた。4月12日に無事発売となり、先日購入した。

たった45分に3大怖いものを詰め込んだという触れ込みと、ワタシがジャンプスケアが怖いので劇場で観れないということ、観る覚悟ができたとしても劇場公開は夏以降になること、Roadsteadでどのようにレンタルやリセールなどの取引ができるのかが気になること。経験値として充分に払う価値はあったと思う。

悪夢の所有

日常であるはずだが、ちょっとずつ何かがおかしい。じわじわと感じる違和感。そして突然、まったく冷静に始まる悪夢。何かが迫ってくる。音。そして決定的に世界が変わる。黒沢清が描く恐怖は今回もまったくそのとおりである。もちろん大好きな不気味なロケーションや『半透明のカーテン』も出てくる。料理教室という危険なものがたくさんある場所が舞台なら、起こりうることは想像に容易いはずだ。もちろんそれである。だがそこは黒沢清作品。一筋縄にはいかない。

生理的にイヤなシーンをきちんと見せるというのは、近年の映画製作のコンプライアンスでは難しいのだろうか。そして逆に結末をきちんと見せないという選択肢も厳しいはずである。劇場公開が優先されていない特殊な環境のせいか、今回はそれらがかなり自由に選択され表現されている印象があった。黒沢清の作家性が純粋に現れた作品となったと言える。

今回は徹底的に無機質なグレーディングになっているため、(ワタシが感じる)画的な美しさはあまり優先されていない印象だった。決定的に世界が変わってしまった瞬間の質感は良かった。それと今回は音やSEの効果がかなり印象的だった。音楽はなんと渡邊琢磨である。COMBO PIANOやsighboatなどよく聴いていた時期があったのだが、すっかり映画音楽家になっていたことは知らなかった。

話しの流れや登場人物、道具、音楽。恐怖と謎に満ちた45分。何度も鑑賞することを想定した作品だと思った。そしてそれに耐えうる作品だった。それにしてもYouTubeなどでも殆どレビューが出ていないのは、箝口令が敷かれてるのかな。

映画の所有

というわけで黒沢清の映画を所有している状態になった。単なるDVDではないのでリセールやレンタルはもちろん、非営利の上映も出来る。映画を所有するという気持ちはどんなものだろうかと思って買ってみたが、これは利用の仕方もクリエイティブに捉えないといけない。映画館で上映会をいち早くするということも起きるかもしれない。(ただし無料である必要があるため映画館側としてはリスクがあるかもしれないが)

単に無料で貸すなら本やDVDと何ら変わらない。ここにあえて金銭のやり取りを含めてみるとどうなるだろう。一種の「推し活」なのだとしたら、映画監督もキャラクターや作家性が必要な時代に戻っていくのかもしれない。推し活の商品が「悪夢」であるというのは苦笑してしまうが、CUREのTシャツまで持っているので、まあそれも良しとしよう。DVDは一切持っていない変なファンである。

『Chime』の予告はまったく存在しないので、6月公開の『蛇の道』リメイク版の予告を貼っておく。今年は黒沢清イヤーである。『Chime』が売り切れるまで4/22地点であと692。完璧な悪夢を所有できるのは全世界であと692人なのである。

(ヘッダー画像: https://roadstead.io/brand/chime/sale

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