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【読書記録】米国のITインフラは神聖不可侵なり? 1940年代のSF小説に見る現代のインフラ戦争

【読書記録】ファウンデーション 銀河帝国興亡史1 (著)アイザック・アシモフ より、ネタバレあり

世界観と本について

1942年の本だが、登場国を日本やアメリカ、中国に重ねてみると、現代の危機を暗喩していると思う。

これは4つの大きな王国星系と中立の惑星ターミナスを巡る宇宙規模の話。

科学技術の神秘の源泉はファウンデーションにあり

銀河を舞台とする作中世界では、文明が後退し、原子力技術はターミナス(科学者集団ファウンデーションの本拠地)を除き、殆ど失われている。その時代、ファウンデーションの原子力技術は神秘と見なされ、扱える技術者は司祭と呼ばれた。

神秘の力を使い、王国を支配するエリートたち

歴代の王を含むエリートたちは、ファウンデーションと結託し、原子力を神秘として利用し、宗教的指導者として君臨してきた。ターミナスは中立を守るための見返りとして諸王国に科学技術を提供していた。これはターミナス市長の政策である。原子力を始めとするターミナスの科学技術のおかげで、諸王国は安定し豊かであった。ターミナスは自らの安全のために敵を富ませる苦しみを抱えている。

ターミナスへの攻撃

ある巨大な王国の摂政(若い王の叔父)が、ターミナスを実力で支配しようと目論んだ。王国は軍事力でターミナスを圧倒しており、ターミナスの科学技術で修理した旧銀河帝国時代の宇宙戦艦を使って、ターミナスに攻撃を仕掛けるつもりだ。当然、圧倒的戦力を手にした王国が、他の王国を無視してターミナスを攻撃するのは予想されていた。ファウンデーションの反対を押し切り、宇宙戦艦を修理したターミナスの市長は、外交交渉のために王国に乗り込む。

宣戦布告の夜

宣戦布告の前夜、ターミナス市長と、自らの権力を笠に着て、得意げに宇宙艦隊の強さと、その提督ある息子の話をしていた摂政との会話が次の通り。

摂政「迎撃などできる訳がない。もし他の王国を当てにしているなら、忘れるがいい。彼らの宇宙軍など束になっても我々にかなわない。」
市長「分かっております。一発も撃つつもりはありません。ただ、一週間前に次のようなお触れを出したのです。今夜中に王国は破門されると。」
摂政「破門?」
市長「お分かりにならなければ説明しますが、王国すべての司祭(技術者)がこれからストライキに入るということです。(中略)殿下、ファウンデーションに対する攻撃は極悪非道な神聖冒涜罪なのですよ!」

司祭たちのストライキ

まもなく、王国中の明かりが消え、交通が止まった。摂政はわなわなと震え強がりを口にしたが、その時、唯一市長が生かしていたテレビ放送に、艦隊の提督、摂政の息子のボロボロになった姿が映り、艦隊が邪悪な目的に使用されようとしていること、その首謀者が父、摂政であることを王国民に暴露した。宇宙戦艦には、市長からファウンデーションの攻撃を事前に知らされた従軍司祭が同乗しており、彼が中心となって艦内でクーデターを起こしたのだ。

ここにターミナス侵攻は、王国民や技術者の大反発をうけ中止されることとなった。

両国の関係を整理する

両国の関係をもう一度整理する。

王国エリート層は原子力の神秘を利用して、自らを宗教的指導者にして、権力の基盤としている。
王国インフラは原子力技術に依存している。
ファウンデーションは原子力技術を掌握している。

これだけで、王国の脆弱さがわかると思う。つまり、インフラを外国に頼っていたために、王国は敗北したのである。

現代の日本、アメリカ、中国は…

さて、現実の歴史を振り返ると、銅銭を輸出した宋(中世の中国)や、文明開化のおりに鉄道を売り込んだアメリカ人、そして今アメリカはインターネットインフラで世界を牛耳っている。

もし今どこかの国が狂って真珠湾攻撃を仕掛けようものなら、アメリカは言うだろう。「これは自由主義に対する神聖冒涜罪である!」と。そしてその国のコンピューターはすべて止まり、インターネットはもちろん、鉄道・水道・電気まで使えなくなる。当然スマートフォンも。そうなったらもう国民の行動はもう一つしかないだろう…。

いま米中両国はお互い、相手国の技術やインフラを追い出そうと必死である。だってそうしないと、戦争できないから…。

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