第9回薬学教育学会 シンポジウム「これからの多職種連携教育の学修プログラムと課題を共に考える」

薬学教育学会と臨床検査学教育協議会との共催でIPEのシンポジウムが開催されることになり、臨床検査学教育協議会を代表する形で登壇の機会をいただいた。

IPEを推進する立場の(他職種の)人たちから「臨床検査の教員が消極的」との話を時々耳にする。他方、IPEが進んでいる養成機関の臨床検査教員からは、「所属校の方針で駆り出されているが、他学科の学生にどう絡んだら良いか戸惑っている」、「症例を作って欲しいと頼まれたが、何を求められているのかわからず困った」との声も聞く。「IPEに参加した学生が『出る幕が無かった』と無力感を感じていた」との声も…。

臨床検査技師は「対人(患者、利用者、家族、コミュニティ)支援」というよりも「診療支援」の役割が大きい職種だ。臨床検査の発展は「迅速さ」と「正確さ」の追究の歴史そのもの。臨床検査技師教育は、「高度な知識の修得」と「技術の熟達」が重視されてきた。だから、直接的な対人支援が扱われることの多いIPEで「患者さんのために何ができるか考えましょう」と言われると「所在ない気持ち」になりがちだ。
一方で臨床検査技師は、「精度管理の行き届いた検査を精確に実施し、 結果を迅速に提供すること」に誇りを持っている職種。「検査を患者さんのために役立てたい」という気持ちは人一倍強い。多職種協働によりその可能性が一層花開く職種なんだ。

すべての職種に居場所があるIPEを作るためには、設計段階から多職種の実践者が参画することが大切。臨床検査教員を設計段階から巻き込んで欲しい、というメッセージを、今回の発表ではしっかりと伝えることが出来たと思う。

一方で、まいぷるプロジェクトでの多職種での学び合いは、必ずしも職種役割の発揮を前提としていない。職種役割を発揮することはそんなに重要なことではないのではないか。むしろ職種役割に捕らわれることはIPEを不自由にするのでは、という思いが個人的にはある。一見相反する主張に、準備段階で随分悩んだ。また、巻き込んで欲しいという前に、もっと臨床検査技師コミュニティの中で発信すべきことがあるのではという思いにも苛まれた。

IPEでは、実社会での接点が少ない職種同士が一緒に学ぶこともある。まいぷるでの経験を通して、私はそれにも大きな意味があると思うようになった。なぜなら、IPEを経験することで、自職種の業務で携わるよりも広い文脈にまで想像力が及ぶようになるからだ。
患者、利用者、家族、コミュニティにとっての連続性の中での自職種の役割を意識できるようになることは、自職種の責任と価値をより広い意味で捉えることに繋がるし、やりがいの実感にも繋がる。教師がそういう視点をもつことは、専門科目の教育内容や方法にも好影響を与えると思う。むしろ、実社会での接点が少ない職種同士こそ、学生のうちにIPEで一緒に学んだ方がいい。

ただ、こういう感覚は言葉で言って伝わるものではなく、体感するもの。まだ自分から踏み出していく準備が出来ていない臨床検査教員は多い。今はまだ「巻き込んでもらう」ことが必要なんじゃないかな。なるべくいい感じに、ね。

今回の発表をするにあたり、「臨床検査技師養成所指導ガイドライン」を読み直して、「多職種連携」の扱いの小ささに驚いた。日本臨床検査学教育協議会の組織の中にも、IPEを扱う部門はない。次のカリキュラム改定に向けた検討が始まろうとしている今の時期に、このことに気付けたのは収穫だった。
今後策定されていくであろう「臨床検査技師教育モデル・コア・カリキュラム」の中にIPEがしっかり位置付けられていくよう、教育協議会に働きかけていこう。
思えばまいぷるプロジェクトの活動について臨床検査技師コミュニティの中ではほとんど発信してこなかった。これからはもっと発信しようと思う。

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