フィンランド、スウェーデンのNATO加盟で詰むロシア
NATOは戦力強化へ
2022年2月に始まったロシア=ウクライナ戦争ですが、その理由のひとつとして言われているのが、ウクライナのNATO加盟を阻止したかった点です。
ウクライナが加盟すれば、NATOはロシア本国に隣接することになり、これ以上の「東方拡大」を防ぎたかったのは事実でしょう。
しかし、この戦争の影響でそれまで中立だったスウェーデンとフィンランドが新たにNATOへ入りました。では、この両国の加盟はどのような結果をもたらすのか?
まず、両国とも武装中立政策を支えてきた相応の軍事力を持ち、独自開発を含む高性能兵器がそろっています。スウェーデンは独自の高い軍事技術を誇り、フィンランドは規模に比して砲兵戦力が充実しているほか、予備役を合わせて30万人まで動員可能です。
したがって、この2カ国の加盟はNATO全体の軍事力はもちろん、従来の弱点とされていたバルト方面の強化にもつながると期待されています。
露の戦略的大失敗
ロシアにとってみれば、自身の行為がむしろNATOの軍事力強化を後押しした形ですが、特に1,300kmもの国境線で接するフィンランドの加盟は歴史的な大失策です。
これまでロシア本土とNATOが共有していた国境線は北のノルウェー部分だけでした。それがフィンランド加盟によって約6.6倍まで伸び、しかも多くの核戦力を配置しているコラ半島に隣接しています。
通常戦力でNATO側に劣り、核戦力を重視せざるをえないロシアにとって、コラ半島の近くまでNATOが迫るのは非常にまずいわけです。
しかも、同半島に通じる幹線道路・鉄道の「R21」はフィンランド国境に並行しているため、補給線が寸断されやすくなりました。
また、フィンランドはロシアの第2都市「サンクト・ペテルブルグ」に近く、人口500万人の主要都市から400kmの地点までNATOが迫ったことを意味します。
こうした事態を避けるべく、ロシア帝国とソ連はフィンランドを侵略したり、最低でもソ連寄りの中立を維持させてきたのですが、これが全て無に帰しました。
皮肉にも、プーチン大統領が尊敬するピョートル大帝以来の数世紀にわたる努力をプーチン本人がぶち壊した形です。
一応、プーチン大統領は両国のNATO加盟についてはそこまで問題視しておらず、この公式反応に基づけば、ウクライナ侵攻の主目的がNATO拡大の阻止ではなかったのが分かります。
いずれにせよ、今回の一件はどのように捉えても、ロシアの戦略的大失敗でしかありません。
バルト海が「NATOの湖」に
先ほど、スウェーデンとフィンランドの加盟でNATOのバルト方面が強化されると述べましたが、これはロシアにとっては以下の2つを意味します。
カリーニングラード(飛び地)の完全孤立化
バルト艦隊の無力化
第二次世界大戦でドイツに勝利したソ連は旧東プロイセンを領土化してカリーニングラードとしました。しかし、ソ連崩壊でバルト三国が独立したところ、「飛び地」としてバルト三国とポーランドの間に取り残されました。
孤立した領土となった一方、これはNATOの横っ腹に刺さったトゲのようなもので、ロシアもここにバルト艦隊(あの日露戦争のバルチック艦隊)を集結するなど、それなりの軍事力を配置してきました。
いざという時には、この飛び地とロシア本国でバルト三国を挟み撃ちにして、短期間で占領するつもりだったそうです。
ところが、スウェーデンとフィンランドの加盟でバルト海は「NATOの湖」となり、貴重な飛び地の完全孤立化をもたらしました。
この状況でバルト侵攻に動けば、バルト海を挟んだところにあるNATO軍の増援(航空機や艦艇、ミサイル)によって海上・航空優勢を奪われ、挟撃するどころではなくなります。
そして、肝心のバルト艦隊は出撃したところで、たちまちNATOの対艦ミサイルや潜水艦の餌食になります。
すなわち、スウェーデンとフィンランドの加盟は、ただでさえ封じられ気味だったバルト艦隊を事実上「無力化」させました。
ロシア海軍の目は東へ?
では、今回のNATO拡大は日本にどのような影響があるのか?
まず、国際秩序に挑戦したロシアに対して、NATOが抑止力を高めるのは同じ西側陣営の日本としては歓迎すべきでしょう。そして、NATOの戦力強化が欧州地域の安定化につながり、アメリカが少しでも対中国にシフトできれば、日本の国益にも適います。
日本にとって基本的には好ましい反面、ひとつ懸念されるのがバルト艦隊の無力化を受けて、ロシア海軍が東の太平洋艦隊に力を入れることです。
バルト艦隊の存在意義が失われた結果、ロシアは別方面の海軍戦力を強化するかもしれません。
そうなると、北方艦隊あるいは太平洋艦隊が有力なわけですが、太平洋艦隊の強化は対中国に忙殺される海上自衛隊の負担を増やすだけなので、ぜひ避けたいところ。
しかしながら、ウクライナ侵攻で自慢の陸軍をすり減らし、膨大な戦費と経済制裁に苦しむ今のロシアには、とても海軍に注力する余裕などありません。
どのような形で終わるにせよ、戦後ロシアは疲弊した経済と陸軍再建を優先せねばならず、海軍は後回しになるはずです。