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中国のA2AD戦略が目指すものとは?


米軍を近づけず、自由にさせず

中国共産党が統治における正統性を保つうえで、民主政体が統治する台湾島を放置するわけにはいかず、軍事力の増強・近代化も台湾統一に向けた動きとされています。

そして、台湾侵攻となれば、アメリカとの衝突が避けられず、これを想定した軍事戦略「A2AD」を推し進めてきました。

「Anti-Access(接近阻止)」「Area-Denial(領域拒否)」の2つからなる同戦略は、簡単にいえば台湾侵攻時に米軍を寄せつけず、自由に行動させないことを目指したものです。そして、それぞれの対象は大まかにいえば、以下のとおりになります。

  1. 接近阻止:周辺にいる米軍(在日米軍)とその同盟国軍(自衛隊など)

  2. 領域拒否:遠方からくる空母打撃群などの米軍主力

このように近隣の米軍基地からの直接介入を阻止しつつ、アメリカ本土などからやってくる主力をけん制するのが狙いですが、前者に対しては日本の南西諸島などを結んだ「第1列島線」、後者はそのさらに東に設けられた「第2列島線」で対処する方針になっています。

台湾を国内問題として捉える中国の視点に立てば、これら列島線は自国防衛のための防衛線であって、A2AD戦略自体もあくまで「防御的性格」を帯びたものなのです。

一方、台湾を事実上の独立政体として認識する日米にとって、この防衛戦略は力による現状変更を目指しているにすぎず、既存秩序を守るうえでは受け入れられません。

つまり、全ては「現状」を巡る認識の違いから発生しており、台湾問題が存在する限りは、第1列島線が走る沖縄周辺への中国軍の進出は続くでしょう。

中国の介入阻止戦略

では、A2ADとは具体的にはどういう戦略なのか?

台湾統一に向けたこの介入阻止戦略では、米軍に対して真っ正面から挑むのではなく、比較的安くて高性能なミサイルを多数使う戦術を重視しています。

なかでも、「空母キラー」と懸念されている対艦弾道ミサイルは迎撃が難しく、動く海上目標も精密攻撃できるそうです。

こうしたミサイルで相手に釣り合わないリスクを与えれば、アメリカの参戦をためらわせたり、少なくともその行動を制限できると期待されています。

中国軍の各種弾道ミサイルの射程(出典:防衛

まとめると、低コストな精密兵器で米軍と自衛隊を叩きつつ、強敵の空母打撃群などを自由行動させないのが基本戦略になります。そして、日米両軍を封じている間に、台湾を平定して既成事実を作り上げてしまうわけです。

日米が逆用して対抗?

このA2AD戦略の思想は新しいものではなく、二段構えの防衛線という構想自体は経済開放と近代化を始めた1980年代に存在していました。

そして、本格的な転機となったのは1996年の台湾海峡危機であって、空母2隻を繰り出してきたアメリカの前に、当時の中国は手も足も出ませんでした。このときの経験が安いミサイル戦力を使った非対称戦へのきっかけになります。

しかし、経済成長にともなって軍の近代化が加速すると、今度は自分たちも空母機動部隊を運用する立場になりました。

こうした空母艦隊は周辺海域における優位性を確保したり、手薄な台湾東岸を脅かすには使えるものの、高価値目標の空母は日米が配備するミサイル戦力によって狙われます。

実際のところ、日本は第1列島線上の南西諸島に地対艦ミサイルなどの部隊配置を進めており、アメリカも台湾有事では地対艦ミサイルを緊急展開させつつ、長距離ミサイルを使う戦術を採用しました。

すなわち、中国の軍拡に危機感を抱いた日米側がA2AD戦略を逆用した形となり、「日本版A2AD」「逆A2AD」とも言われています。

自分たちも空母を持った結果、低コスト兵器で高価値目標を撃破する手法を逆手に取られたわけですが、それでも強力なミサイル戦力を有している点は変わらず、海上自衛隊や横須賀のアメリカ第7艦隊などに大きな損害を与えられます。

また、アメリカも対艦弾道ミサイルの脅威を恐れてか、空母打撃群は遠方展開させながら第1列島線内にいる味方部隊を支援するつもりです。国際秩序の維持と同盟義務は果たさなければならない一方、虎の子を空母をできるだけ危険にさらしたくないのも本音でしょう。

これらをふまえると、台湾有事では中国と日米双方の「A2AD」がぶつかることになりそうです。


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