【独断&偏見】サザンオールスターズ&桑田ソロ、アルバムランキング
江ノ島が見えてきた〜俺の実家はひたちなか〜
というわけで我が地元ひたちなか市にサザンオールスターズがやってきます!!!
ぶっちゃけ最近のロッキンには変わり映えのしないいつメンばかりのラインナップに、蘇我移転とかで関心を無くしてたんですけど、サザンが来るならちょっと行くのもありかなって思った今日この頃。やっぱり地元ひたちなかで久しぶりのロッキンだし、それにこの機会を逃したらサザンなんていつ見れる?って話になるわけで。
そういうこともあって、これを機にサザンと桑田ソロ全部聴いてみるかって思い立って、テイラースウィフト以来のアルバムランキングを作ったという経緯になります。今回のランキングの対象はサザンは78年の「熱い胸騒ぎ」から14年の「葡萄」まで、桑田ソロは86年のKUWATA BANDの「NIPPON NO ROCK BAND」から17年の「がらくた」までを対象としてます。EPやベスト盤、企画版は抜いておりますのでご了承を。
桑田佳祐に対する雑感
本記事作成にあたり白状すると、筆者はサザン並びに桑田佳祐についてはつい数年前まで全然良さを理解できてなかった、というかなんでこんな大物扱いしなきゃいけないんだ?っていう気持ちが強かった節がありました。
というのも筆者が物心ついた頃の桑田佳祐ってサザンが2012年くらいの活動再開したあたりとかで、桑田ソロなんかも「Yin Yang」とか結構渋めの歌謡曲に凝ってた時期だったのであんまハマらなかったんですよね。なので当時ロッキン2018でサザンの日チケット持ってたんですけど、別日のアジカンの方が見たい!って言ってチケット交換してもらうっていう、今考えたら中々勿体無いことしたりしてるんですよ笑。
で、そっから時間が経ってからレコードプレーヤーを買った時に、ディスクユニオン行ったら480円くらいで「人気者で行こう」が売られてて。それで安いから買ってみるかーぐらいのノリで聴いてみて、めっちゃイイやんサザン!ってなってやっとハマるっていう経緯なんすよね。そんなわけでサザン含め桑田関連の作品もまじめに聴き始めたので、今回のマラソンを機に取りこぼしていた作品も聴けて結構発見がありましたね。
桑田佳祐ですが、やはり天才。これに尽きます。邦楽屈指のメロディメイカーでもある彼ですが、彼のメロディの組み立て方についてはある程度コード進行とかそういった手癖みたいなのが確立されていて、それが日本人のDNAレベルで夏の原風景として浸透させたのが凄さでもあるんですよ。そこに日本語詞の音のハメ方と言葉のチョイスの美しさもたまらない。例えば「素顔で踊らせて」という曲での"秘め事ならもっと大切に2月26日には~"ってフレーズの2月26日のアクセントのつけ方なんて、彼の音楽のセンスを凝縮した痺れる瞬間でもあります。一方で作詞という部分に関しては80年代頃は世界で戦うためには英語でやるしかないという思想も強かったものの、桑田バンドの頓挫等があり日本語詞へのアプローチを強めていったという側面があり、実際それは日本語詞への比重が強くなったことでロック色の強い作品から昭和歌謡の作品が増えていく一部要因にもなったのかなと思われます。
ただそれ以上に彼の凄さというのはヒットメイカーとして長年俯瞰できるマーケティング能力と、音楽に対するあくなき野心です。思えばサザンでデビューした時から発想力とメロディセンスの高さはあったのですが、時代にマッチするためにその時々のトレンドの音を取り入れたり、また作風やボーカルアレンジに作詞の構造も変えています。またその立ち振る舞いや自身に対する見られ方についてもかなり意識的なので、「涙のキッス」などのヒット曲を連発していた中でソロで「孤独な太陽」という不愛想な作品を出したりなど、ほどよくバランスを取れている印象があります。そういう意味ではジョンレノン的な野心のあるソングライターなのかもしれません。
サザンオールスターズに対する雑感
サザンオールスターズは言わずもがな日本を代表する国民的バンドなわけですが、実は彼らって他の国民的立ち位置のバンドと比べると非常にユニークな性質を持ったバンドではあるんです。
まず彼らの経歴って70年代に鮮烈なデビューを飾り、実人気の全盛期は80年代に入ります。しかし音源の売り上げについては90年代がピークで、さらにキャリア最大のヒット「TSUNAMI」は00年代という具合に、なんていうんでしょうかずっとバンドとしての強度を維持している不思議な性質があるんですよね。これって90年代のCDバブルの時期に台頭したB,zやミスチル、スピッツなんかのほかの国民的バンドと違いますよね。さらにサザンと先ほどの三者での決定的な違いでいえば、アルバム単位でみるとこれ!っていう作品がサザンには無いんですよね。B,zだと「Loose」に「Brothehood」、ミスチルは「Atomic Heart」や「深海」、スピッツなら「名前をつけてやる」に「三日月ロック」がありますが、サザンの場合は出てこないんですよね。
この不思議なキャリアの経歴、決定的な代表作不在というのが、サザン並びに桑田佳祐って凄いけどいわゆるTwitterの音楽オタク的史観で見る邦楽評論の世界では中々名前は上がらないっていう事象の要因だと思うんですよね。バンドブームからのロキノン勃興期の時代より前、つまりアルバム体系で評価されるバンドが少なかった時代で、なおかつお茶の間でコミックバンド的な側面も持っていたサザンの扱いって非常に難しかったんじゃないでしょうか?
また後述するんですけど、桑田佳祐の中でのサザンオールスターズの扱いについては時代ごとに変遷があると思ってて。デビューから82年の「NUDE MAN」まではテレビスター的な側面の強いバンドであり、83年「綺麗」から97年「さくら」の頃ぐらいはポップスとオルタナの両輪でバランスを取りながらしっかり実験していく方向性に舵を切り、00年代になると「TSUNAMI」のヒットにより国民的バンドの地盤をしっかり固めてくフェーズになっていく流れとなります。ただ一方でそれまでサザンの持ってた実験精神みたいなところは桑田ソロへと移行された気がして、筆者としては08年の活動休止を以てしてサザンの活動に終止符を打ちたかったのではとも思います。14年の活動再開以降のサザンの動向を見てると桑田佳祐の意思というよりも、国民的バンドとしての責務及び旧来のファンへの期待に応える側面が強い活動にシフトしてる感は否めないというか、より以前よりもバンドとしての力が強くなった気はします。
それに付随して今回の記事はアルバムでサザン並びに桑田佳祐のキャリアを振り返ると共に、意外と若い世代には認知されていない80年代の桑田佳祐ワークスにも注目してもらおうというのも一つの趣旨ではあります。というのも先ほど述べた通り、サザンの人気的な全盛期って間違いなく80年代だと思うんですよ。筆者(現25歳)の親世代なんかはガッツリ世代なんで80年代のサザンっ知ってるとは思うんですけど、筆者ぐらいの世代のサザンって勝手にシンドバッド(78年)といとしのエリー(79年)の次は涙のキッス(92年)くらいまで飛ぶくらい80年代の曲って認知されてない印象があるんですよね。実際SpotifyやJOYSOUNDの人気曲を見てもほぼトップ5は90年代以降の曲で固められており、ミスブランニューデイ(84年)がやや入ってくるかなぐらいの認知度なのが現状な気がします。ちょっと前のシティポップ文脈のリバイバルにおいても、都会派サウンドとは少し趣の違うブレバタらと共に共鳴する湘南サウンドを武器とし、なおかつ日本の歌謡曲的なエッセンスも色濃いという点も、海外リスナーから関心を持たれにくい要因なのかなとも思いますね。
さて前置きも長くなりましたが、アルバムランキングに行こうと思います。
21位 「NIPPON NO ROCK BAND」
最下位はこの鉄壁のディスコグラフィを構築する桑田自身もファンも認める失敗作でお馴染み、KUWATA BANDの唯一のフルアルバムですね。筆者も今回の企画を機に初めて聴いてみたんですけど、思い出したのはデヴィッドボウイが一時期やってたティンマシーンの作品に感じたあの気まずい感じ。多分ボウイも桑田も録った時は楽しかったんだろうけど、実際聴いてみるとなんか違う感。特に桑田佳祐って意外とロック系の曲作らせると、コッテコテのオールドなロックンロール(多分あの声質と本人のルーツが由来による)になってしまう傾向があるので、割とどの曲も同じようなもったり感は否めない。そう考えると90年代に入ってからオルタナ系の音楽やクラブビートも柔軟に取り入れられたので、90年代後半にこうやって腰を据えてバンド音楽やろうとすればASKAの「Kicks」みたいなカルト名盤を作れそうな気はするんですけどね。
20位 「葡萄」
正直KUWATA BANDとタメ張るくらい個人的には最下位争いしてる現時点でのサザンの最新作。もう最初の「アロエ」の激ださシンセの時点でおやおやって感じなんすけど、そもそも活動休止明けのサザンって東日本大震災とかを経て、半ば国民的ロックバンドとしての要請を背負っての復活的な側面がある気がして、桑田佳祐の中でサザンというフォーマットでチャレンジングなことをしようって感じがあまり感じられないんですよね。個人的には「彼氏になりたくて」みたいなサザンの強みとも言える秀逸なミディアムナンバーもあるんですけど、やっぱり「東京VICTORY」や「ピースとハイライト」のような社会的な要請を請け負うサザンって構図が強く出ちゃってるのは否めない。
19位 「ROCK AND ROLL HERO」
サザンで「TSUNAMI」というキャリア最大のヒットを打ち出した後、「波乗りジョニー」と「白い恋人たち」という特大ヒットをソロで生み出した勢いで作ったソロ3作目。同系統の作品のKUWATA BANDのアルバムとは打って変わり、エッジの効いた泥臭いバンドサウンドを打ち出してるのだが、いかんせん桑田佳祐のディスコグラフィにおいて曲の強度が弱いんですよね。というか通しで聴いて時の印象の残り方が断トツで弱い。シングルカットされた「東京」は渋くて良いんですけど、しょうみそれ以外はラフで録りすぎたな感。
18位 「稲村ジェーン」
非常に評価が難しいアルバムです。桑田佳祐自らメガホンを握った「稲村ジェーン」のサントラで、「希望の轍」や「真夏の果実」といった代表曲も今作に収録されている。収録曲の質に関しては小林武史とタッグ組んでいた時期なだけあってピカイチなんですけど、それでもいただけないポイントも何点かあって。まずは同時期にリリースされたアルバム「Southern All Stars」とダブっている曲があること、しかも「忘れ去られたBig Wave」や「愛は花のように」という「Southern~」でも核になり得る楽曲というのがいただけない。そしてなんといってもアルバムコンセプト。これが映画「稲村ジェーン」を映画館に見に来たカップルの様子というのをコンセプトにしているのだが、曲の合間にとにかくカップルのどうでもいい会話を聞かなきゃいけなくてシンプルに邪魔くせぇ。ていうか映画鑑賞中にしゃべるなよ。映画泥棒に一回締められろよ。いくら男役が警視庁特例係の肉体派だからって、映画鑑賞マナー守れねぇ奴にテレビ朝日のゴールデンタイムは任せられねえからな???
17位 「がらくた」
今の順位だけでみると軒並み最近の作品への評価が低い感じになっているが、直感で良いと思った作品から並べたらそうなっただけなんやてぇ。ということでソロでのフルアルバムだと一番最近の作品なんだけど、基本的には前作「MUSIC MAN」の作風にさらに歌謡曲的エッセンスを強めた作品だ。正直に白状すると、俺はあまり桑田佳祐のつくる歌謡曲があんんんんんんまり肌に合わないのだ。桑田佳祐って良くも悪くも"軽さ"に醍醐味がある人なので、特に近年の軽めのサウンドプロダクションで歌謡曲的な作品をやらせてしまうと軽さが仇となっていしまうきらいがあるように思えた。それでも「若い広場」や「百万本の赤い薔薇」なんかはいい曲ですけどさ。
16位 「さくら」
往年のファンからはサザンの問題作として扱われている印象がある作品。確かに「CRY 哀 CRY」みたいなもろレディへのOKコンに影響受けたようなディストーション激しめのギターサウンドが目立つ楽曲も多くありますけど、今作が問題作なんて言われる所以はやはりアルバムの完成度として散漫さが目立つ点に尽きるのではないだろうか。この時期のJ-POPってバブル崩壊にノストラダムスの大予言なんかの影響もあって暗くてどんよりとした作品が目立つんですけど、それこそ自信のスキャンダルで破滅的になったミスチルの「深海」や、薬物に手を出したことで文字通り破滅したASKAの「Kicks」なんかの作品と比べると、今作って「Love Affair」みたいな往年のサザン流ポップスは普通に収録してるし、社会に対して強い不満や鬱屈感みたいなものが上記の2作と比べて無さそうに見えるんですよ。「爆笑アイランド」や「私の世紀末カルテ」みたいな桑田流ブルースもありますけど、あくまでも作品のアクセント程度までにしかなれていない。そういう意味ではKUWATA BANDのとこでも言ったように、いっそ「Love Affair」みたいなポップな作品を入れずにオルタナ一本で勝負すればよかったのに。
15位 「タイニイ・バブルス」
80年代サザンの最初の一枚。原坊がメインボーカルを取った曲のなかでも初期の代表作の「私はピアノ」、ベストにも入っている「C調言葉に御用心」、俺の母ちゃんが大好き(知らねぇよ)でお馴染み「松田の子守歌」等々、結構それなりに知名度がある曲が入っているんですけど、なんか地味な印象が拭えないんですよね。「熱い胸騒ぎ」、「10ナンバーズ・からっと」というバンドとしての成長曲線が明確に見えていた2作から流れて聴くと、今作って前2作から大きな飛躍が無くむしろ地に足固めた作風って感じがするんですよ。あとはその感触が楽曲にも伝わっている感はあるというか、前2作までのバンドとしての荒っぽいん感じが減退したのもこの順位に落ち着かせてしまった要因かもしれないです。
14位 「MUSIC MAN」
ここまで割とけちょんけちょんに言ってましたが、この作品からは褒め褒め多めです。00年代以降サザンが国民的バンドとしてのイメージが固まり過ぎたのに対し、桑田ソロはかなり自由度の高いプロジェクトに変貌していきます。そして本作はその本格的な幕開けに近く、それまでの桑田ソロでも垣間見れた柔軟さに天性のポップセンスが噛み合ってきた一枚という印象で、桑田佳祐の一つの基準を打ち立てた印象はあります。
13位 「Young Love」
桑田佳祐のディスコグラフィーの中でも一番洋楽的な作風になったのは意外にも今作な気もしなくはない一枚。確かにKUWATA BANDだったり、「KAMAKURA」や「さくら」みたいな海外のバンドからのインスパイアが色濃い作品はあるんですけど、多分彼の原体験的な意味での洋楽的なアプローチをしているのは今作だと思うんですよね。それこそ今作のリードシングルである「あなただけを」なんかはがっつりフィルスペクターリスペクトな作風なわけで、それ以外も「Young Love」や「マリワナ伯爵」など随所にUKロックを意識してるんだろうなって場面が散見されます。ただ真っ直ぐにポップスな作風なだけに、他の作品と比べるとフックになるような瞬間が少なかったのも正直なところ。
12位 「熱い胸さわぎ」
記念すべきサザンのデビュー作。冒頭1曲目からあの「勝手にシンドバッド」で始まる時点で、サザンというバンドがずば抜けたセンスを以てしてできた驚異の新人という事実がうかがえます。桑田佳祐のソングライティングという面ではどうしても「愛しのエリー」とかが入っている次作以降に軍配が上がるきらいがあるとは思うんですけど、バンドとしての総合力、つまり桑田以外のメンバーの演奏面での見せ場が多いのはこっちのアルバムな気がします。同郷のブレバタなんかとも共鳴する、USサザンロックに湘南の磯臭さをブレンドした明朗快活なロックサウンドが魅力ですね。
11位 「NUDE MAN」
初期のAOR路線の総決算的な作品。前作「ステレオ太陽族」で提示した夏の海とメロウなサザンという印象に、元来桑田佳祐というソングライターが持ち合わせていた大衆性と下世話な歌謡曲的エッセンスが上手く融和した作品という印象が強いのが今作。特に現在までの桑田佳祐の活動につながる「匂艶 THE NIGHT CLUB」のような楽曲も収録されており、ある意味今後の桑田佳祐の未来を、そして桑田並びにサザンのイメージをかっちり固めた印象があります。欲を言えばこの時期にリリースされた「チャコの海岸物語」や「Ya Ya (あの時代を忘れない)」のような傑作シングルも入っていれば、もう少しアルバム全体に派手な印象がつくんだと思う今日この頃。
10位 「ステレオ太陽族」
個人的に初期サザンのバラードの中でも屈指に大好きな一曲「素顔で踊らせて」が入ってるので、この順位に落ち着くのはちょっと解せないところが自分でランク付けしているのに感じてる次第でございます。初期サザンのカタログの中でもかなりAORでメロウな路線に振り切った作品で、全体的なスピード感はまったりとした印象がある一枚。夏の鎌倉~湘南でサザンのアルバム一枚聴けっていわれたらそこそこ躊躇した挙句、これを選んでしまうかなぁってくらいには彼らのパブリックイメージの一面を作っている気がする。上記の「素顔で踊らせて」を筆頭に、「栞のテーマ」、「夜風のオン・ザ・ビーチ」とメロウなバラードだけで言ったら完成度は一級品。ただそれ以外のいわゆるサザン特有の俗っぽい野暮ったさのある楽曲群(例えば「我らパープー仲間」とか)みたいな曲の完成度については、歌謡曲的エッセンスの色濃い次作「NUDE MAN」の方が上手くまとめられた気がする。
9位 「キラーストリート」
後期サザンの傑作としての地位を確立させてる印象すらある00年代唯一の作品。というかこの作品の出来が良すぎたせいで、次作「葡萄」でん???ってなってるファン多いと思うんですよね。というこの作品の立ち位置ってやはり「TSUNAMI」というキャリア最大のヒットを経て国民的バンドとしてのポジションを確立したサザンの総決算的な作品というか、むしろ桑田氏にとってあまりにビッグになりすぎたサザンが動かせなくなったが故に、今一度サザンという存在を定義するという大義を持ったのではないのだろうか。故にこの作品と前後して出された桑田ソロのシングルってサザンの名前で出しても遜色ないものばかり、というか下手したら今作収録曲よりも派手な気もしなくはないという笑。とはいえ30曲2時間越えの脅威のボリュームでありながら、飽きさせないし疲れさせないその絶妙な塩梅がサザンのバンドとしての凄みを感じさせる一枚ではある。
8位 「綺麗」
80sサザンの一つのターニングポイントともなった作品。80年代といえば切っても離せないシンセサイザーの登場、YMOブームを経た日本の音楽シーンでもその流れは大きな影響があったわけで、サザンもその例外ではなかった。しかしこのバンドにとってシンセサイザーの導入は、元来下世話さと洒落を掛け合わせたようなバンドのポテンシャルを花開く起爆剤となり、お洒落で親しみやすい大衆ポップスと実験的でオルタナティブ気質な二つの顔を持ち合わせることとなった。クオリティとしてはこの後の「人気者で行こう」や「KAMAKURA」に軍配は上がるかもしれないが、「NEVER FALL IN LOVE AGAIN」のような少し垢抜けない懐かしい顔も覗かせる楽曲もある今作の魅力も相当なものだ。
7位 「10ナンバーズ・からっと」
大名曲「いとしのエリー」が収録された初期サザンの傑作。デビュー作「熱い胸騒ぎ」の時点でちらつかせてたメロウなメロディラインが、今作では「いとしのエリー」や「ラチエン通りのシスター」といった楽曲で見事にそのポテンシャルを花開かせた印象。それでも当時の彼らの若さと勢いを感じられる「思い過ごしも恋のうち」のような楽曲もあるのが魅力であり、桑田佳祐の全キャリアを通しても底抜けないパワーで満ち溢れた一枚となってる。結果的にこのアルバムの成功、というか「いとしのエリー」の成功というのが桑田佳祐に大きな自身をつけさせたというか、キャリアを通じて作風の多様化を加速させる契機となったという意味でも音楽家・桑田佳祐の命運を握った作品なのかもしれない。
6位 「世に万葉の花が咲くなり」
Spotifyのサザンのオリジナルアルバムでは一番聴かれてて、これまたサザンファンの間では確固たる人気がある作品。桑田&小林体制では最後の作品となっていて、その後の「Young Love」、「さくら」も基本的にはこの作品で提示したアルバム構成をなぞっている感は否めないが、とにもかくにも桑田&小林の提示したJ-POPのスタンダード的な音は今作で概念として固まった感はあります。さてそんな今作はいっぱい語れる魅力はあると思う。同年代に流行したマッドチェスターを大胆に導入した冒頭の1曲目だったり、「シュラバ・ラ・バンバ」の怪しげな感じ、今一度湘南風AORを鳴らした「君だけに夢をもう一度」、ビーチボーイズ譲りの絶品のコーラスワーク「IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR」、バンド初のミリオン「涙のキッス」など収録曲も申し分ない。。。。だがそれ以上にもっとも大事なことは、桑田佳祐のボーカルが美しく綺麗に録音された作品としては今作がぶっちぎりなのではないだろうか。何を言っているのか判別できないから歌詞テロップという概念が生まれた、良くも悪くも好みは別れやすいボーカリストである桑田氏であるが、今作においてそのような類のストレスを感じさせる瞬間はかなり少ない。それこそ大ヒット曲「涙のキッス」にしたって、桑田氏のボーカルがキャリア通してみてもベストテイクだったからこそ売れたわけで。個人的には序盤がそんなに好きじゃないのでちょっと順位を落としたが、スーパーボーカリスト桑田佳祐ここにあり!ってだけでもこのアルバムの価値は大きいのではないだろうか。
5位 「KAMAKURA」
音楽評論的な方面で言えばサザンの最高傑作といえば今作な気がする一枚。1985年といえば国内のシーンで言えばアイドルブームからバンドブームへ切り替わる時代で、その中で安定したセールス基盤と人気を保ちつつも、シンセ導入後はどんどん実験的なアプローチを展開していたバンドの創作意欲の頂点のような時期の作品です。そんな視点で見てみると意外とサザンってレディオヘッド的なスタンスに近いイメージなのかもしれませんね。まぁトムヨークと桑田佳祐では捻くれと言う共通点以外は何もかもスタンスが違うのでなんとも言えませんが。今では結構シンセの音とかドラムのアレンジがいわゆるバッド80sなんて言われたりして評価を下げてますが、当時の日本のバンドでここまで凝ったシンセサウンドでしっかりポップスやってるバンドがいますか?って話ですよ。シンセのサウンドに関してはYMOのアシスタントを務めてた藤井丈司が務めており、アプローチ面では桑田本人も言及している通りScritti Polittiから影響を受けているとのこと。なるほどたしかに。Scritti Polittiといえば今作と同年に「Cupid & Psyche 85」という不屈の名盤をリリースしているバンドだが、確かに彼らもパッキパキのシンセサウンドの裏腹にブラックミュージックの影響が色濃いソウルフルで歌心溢れるバンドだったわけで、そういう意味では当時のサザンはまさに日本版Scritti Polittiとも言うべきか。あとこのアルバムもそうなんだけど、サザンって2枚組の作品でも全然聴いてて飽きる瞬間が無いんだよね。
4位 「孤独の太陽」
桑田佳祐というアーティストはその歴史において最高のエンターテイナーとして認知されてきたことは立証済みの事実であるが、同時に彼を語るうえで捻くれという要素も抽出することも大事だと思う。今作は桑田ソロ名義では2作目となるが、思えば「綺麗」以降ポップスとオルタナの二面性の中で自身の西洋コンプレックスと葛藤していた男が、小林武史という最高の右腕とともに日本発のど真ん中のポップスを5年近く模索した時期を経て作られたわけで、ある意味では反動に近いような自然な形で今作という捻くれの塊が桑田一人の手で出来上がったようにも思える。桑田佳祐は恐らく絶対静かにしていなきゃいけない全校集会で、どでかい屁を掻いてかき乱したいタイプの人間だ。よくネタにされている「すべての歌に懺悔しな」もそうだが、この時点で確固たるポジションを気づき上げている桑田が、90年代中盤という時期にわざわざ矢沢永吉と長渕剛をディスする必然性が全くないわけで、これはある種のシーンに対するポージングのようにも思える。雑然としラフな音作りで仕立て上げられたこの作品も、自身の手で作り上げたJ-POPが様式美のように完成されてしまったことへのポージングである。そしてアルバムタイトルも自身は第3者視点でシーンを眺めているという、実にシニカルな一面を持ち合わせた自身のスタンスの現れ。日本の音楽シーンが生んだ道化師の剥き出しの眼差しであり、そしてここから折り返すかのように「深海」や「TRUE」といった世相の暗さを反映した傑作が多く出ることになるJ-POPの分岐点にもなりえる作品だ。
3位 「SOUTHERN ALL STARS」
お洒落な音楽ってなんだろうって思うこと皆さんにはあるだろうか?個人的にはThe 1975が作った概念でMUSIC FOR CARSと呼ばれるものであり、確かにドライブの時にかけたくなるような音楽ってお洒落だと思うのが多いよなって気づかされることが多い。今回の桑田佳祐の作品群を聴いてみて思ったのが、改めてサザンってお洒落な音楽、というかまさにMUSIC FOR CARSだなってこと。サザンの楽曲を聴き進めていくたびに、俺の心の中の眞嶋秀和が「このお洒落な音楽は…!!!」って驚嘆し、それに対し俺の心の中の柄本明ががっさがさな声で「それが至極のMUSIC FOR CARSじゃ」って諭す映像が何度もフラッシュバックするのだ(参照元:NHK BSプレミアム「京都人の密かな愉しみ 夏『水の美学 夏』」2015年8月15日放送より)。今作は特にシャレオツなサザンを楽しめる一枚で、小林&桑田体制の作品の中では一番音も古臭い感じがするのは否めないが、逆にこのパッキパキな音像が今の耳で聴いてみるとノスタルジックな趣もあって悪くはない。桑田流ロックにしてはクールな趣がある「フリフリ65」、マリオカートのノコノコビーチを想起させる「愛は花のように」、キザな爽やかさがたまらない「YOU」、これぞサザンのバラードとも言わんばかりの「逢いたくなった時に 君はここにいない」など、なるほどこれが至極のMUSIC FOR CARSというやつですか…と感心する一枚。
2位 「Keisuke Kuwata」
今作の存在意義は桑田佳祐のソロデビュー作という一言だけで終わらせてしまうにはもったいないと言いますか、この作品を以てしてJ-POPという大衆音楽は始まったのではないかと思う記念碑的な一枚です。個人的にはこのランキングを始めるにあたって全作聴き直す作業をしたんですけど、それまではもしサザン&桑田でランキング付けるならこれが一番だろうなと思ってました。というのも、そもそもJ-POPという音楽ジャンルはラジオ局のJ-WAVEが定義づけた音楽ジャンルで、海外的なアプローチを取り入れた日本初の洒落た音楽というガバガバ定義で成り立っているのだが、個人的には3組のキーパーソンがいると思ってて、一人はクラブミュージック的観点を歌謡曲に落とし込んだ小室哲哉、テレビという映像メディアとの親和性を改めて提示したChage and ASKA、そしていわゆるJ-POPのスタンダードな音と曲構成を定義した小林武史と桑田佳祐のコンビだ。つまりそんなJ-POPの標準形式を定義したのが小林と桑田が初めてタッグを組んだ今作なわけで、それまで欧米コンプレックスをこじらせていた桑田が、日本語詞へのアプローチへ振り返ったうえでジュブナイル的な原風景を想起させるプロデュースに定評がある小林と組んだことのシナジー効果というのは、今作収録の楽曲が今聴いても古びない特別なきらめきを放っている要因なわけなんよ。ここ最近ユニクロのCMで今作収録の曲がちょくちょく起用されているが、この作品で定義した音が後のJ-POPを作り出す一つの指標となったのだ。
1位 「人気者で行こう」
というわけで栄えある第一位は84年発表の「人気者で行こう」になりました。やっぱり全作品を一周して聴いてみたうえで、桑田氏含めたメンバーの音楽的野心のモチベの高さ、そしてそれに対して楽曲のポップスさとのバランスが一番釣り合っていると思ったのがこの作品で、程よいとんがり具合とこの時期の湘南サウンド真っ盛りの爽快かつ痛快なサザンを楽しめるという点でも、すべての歯車が上手くかみ合った作品なんじゃないかなと思います。シンセサウンドは確かに今作以降の方が洗練されるんだろうけど、逆に洗練されすぎて時代だなぁって思わせる部分もあって。逆に今作のシンセの音でまだちょっとあどけない感じの音像(「ミスブランニューデイ」のつたない音の感じとか)で、逆にそれがサザンのいい意味での野暮ったい感じともマッチしてて味があるんですよね。そしてなんといっても今作の最大の魅力って、80sサザンがずっと大事にしてきた湘南の海沿いを想起させるメロウなAORナンバーが今作を以てして完成している点なんですよ。そんな彼らのキャリアの最高到達点的楽曲に対して名付けたタイトルがどストレート「海」なのも、当時の彼らの自信の表れを象徴してますよね。人気・実力・野心・タイミング、すべての要素がポジティブに作用した最強のシナジーが今作を名盤たらしめる所以なわけでございます。
いかがだっただろうか。
筆者はこの記事をだらだらと書いている間に、見事にサザンが出る日のロッキンのチケットを買い損ねてしまったのでまたサザンを見る機会を失ってしまいました。クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
わかりやすくサザンとエルレが出る日だけ売り切れてるんじゃねぇよバーカバーカ。ケチケチしてねぇでグラス以外のステージも用意しろよクソ運営バーカバーカ。
というわけで今年からサザンのファンクラブに入会することにします。