「戦争と平和についての世論調査」- Askabout
こんにちは、Aska Intelligenceの川本です。
今回は、公益性があるテーマについて、合同会社Aska Itelligenceが自主的に実施した調査についてのレポートです。
調査の目的
ウクライナとロシアの戦争が開始から2年半が経ち、パレスチナとイスラエルの間にも緊張状態が続いています。戦争は人々の生命を賭けた国家間の究極の駆け引きであり、決して善悪の二元論で整理できるシンプルな問題ではありません。特に多くが国民国家である現在の世の中では、選挙を介して世論の影響が複雑かつ大きく国家の決定に関与します。従って、後世に歴史を振り返って過去から教訓を得ようとする場合も、将来の予測をする場合も、歴史的事実として残る"ハードな"情報の他に、世論のような"ソフトな"情報をできる限り精密に記録していくことには大きな社会的価値があると考えられます。
本調査は、戦争および平和維持に対する人々の現在の考え方を俯瞰し、将来・過去の人々の考え方との比較に活かすことを目的として実施しました。
調査データの概要
8月9日(長崎原爆投下の日)および8月15日(終戦の日)の2日間に、クラウドソーシングより回答を収集しました。生データの回答件数は407件、最終的に抽出された有効な回答は342件です。
調査は、SNS型の自由記述式アンケートシステム『Aska』を用いて実施しました。回答者は、通常の選択式アンケートのように自身が賛成する回答を選択(「いいね」)するとともに、SNSのように独自意見を投稿することができ、それは他の回答者には選択可能な回答として提示されます。
Askaについての詳細は以下をご覧ください。
母集団の設定:日本に住む日本人
データ収集形式:クラウドソーシングによる募集
対象者選定基準:なし
調査実施日:2024年8月9日, 2024年8月15日
所要時間:1分35秒(中央値)
質問内容:10問(選択式質問8問, SNS型自由記述式2問)
属性質問:性別・年齢・居住地域・最終学歴・職業・居住形態・年収・最もよく利用するニュースメディア
メインの質問1:「もし日本が一方的に外国から侵攻を受けた場合、初期段階において日本政府はどのような対応をすべきだと考えますか?」
メインの質問2:「今後、日本が戦争をしない・戦争に巻き込まれないためには、日本政府はどんな具体的な対策を行うべきだと考えますか?」
データ数:
生データ:407件
重複・無効回答フィルタリング後:388件(19件を除外)
データクレンジング後:350件(38件を除外)
ウェイティング可能なデータ抽出後:342件(8件を除外)
調査結果
属性分布
まず調整(ウェイティング)前の性別と年齢の分布を見てみると、以下のようになっています。
2024年の国勢調査の結果と比較すると、このサンプルでは男性の比率が高く、60歳以上の方の比率が低いことが分かります。
本調査では、国勢調査の結果を参照し、性別と年齢のサンプルサイズ分布が国勢調査の分布とほぼ一致するように調整しています。この調整のもとで、他の属性分布は政府が実施した大規模調査の結果と合致するのかを見てみた結果、
居住地域の地理的な偏りはあまりない
単身世帯割合は少ない
低所得者層の割合は多いが、中間所得層の割合はほぼ偏りがない
無職の割合は低く、自営業の割合は高い
高校卒の割合が低く、大学・大学院卒の割合が顕著に高い
という傾向がわかりました。
質問1:「もし日本が一方的に外国から侵攻を受けた場合、初期段階において日本政府はどのような対応をすべきだと考えますか?」
最初の質問は、すでに外国から侵攻を受けている状況を想定した場合にどんな判断がなされるべきかを伺ったものです。
回答は「軍事力を行使するグループ」と「軍事力を行使しないグループ」に分かれ、推定値として約62%の方が軍事力を行使すべきではないと回答しました。
具体的な回答文と支持者の属性の内訳を見てみると、「軍事力を行使しないグループ」は顕著に女性の比率が高く(60.2%)、一人暮らしの割合が低い(21.6%)と言えます。「軍事力を行使するグループ」は対照的に、男性の比率が高く(63.7%)、一人暮らしの割合が高い(31.0%)と言えます。他の属性については、グループ間での顕著な違いは見られません。
質問2:「今後、日本が戦争をしない・戦争に巻き込まれないためには、日本政府はどんな具体的な対策を行うべきだと考えますか?」
こちらの質問は前問と違って危機に直面している想定ではなく、将来への対策としてどんな判断がなされるべきかを伺ったものです。
回答は「核兵器を含む軍事力強化を支持するグループ」と「軍事力強化以外の対策/核兵器を含まない軍事力強化を支持するグループ」に分かれ、推定値として約12%の方が核兵器を含む軍事力強化すべきと回答しました。
具体的な回答文と支持者の属性の内訳を見てみると、質問1と同じく「核兵器を含む軍事力強化のグループ」には男性の割合(73.7%)および一人暮らしの割合(44.9%)が高いことが確認できます。さらに「核兵器を含む軍事力強化のグループ」は、もう片方のグループよりも高年齢層に偏っていて、最もよく利用するメディアとして新聞を挙げていない傾向が伺えます。
まとめ
どちらの質問においても、軍事的なアクションには否定的な回答者が多数派であることが分かりました。質問1についてはすでに危機的状況にあるということから、軍事的な行動に出ることを支持する割合が38.1%となっていますが、質問2での今後の対策という内容になると、軍備増強に積極的な回答者の割合は11.8%とさらに低い値となっています。全体的に、単身世帯の男性が軍事的な行動に積極的な回答をする傾向が見られました。
謝辞
少額のリワードにも関わらず調査に参加してくださったクラウドワーカーの方々に感謝いたします。参加してくださった方々の声や投票が、後の世に残るものになるように頑張っていきたいと思います。
調査手順の概要
本記事では触れませんが、この調査には以下の処理が行われています。
【前処理】生成AIを用いた調査設計(エキスパートレビュー)
【前処理】AIエージェントシミュレーションを用いた事前調査(AIが提案する回答の偏りの傾向をチェック & データクレンジング用のデータ生成)
【後処理】データクレンジング
【後処理】統計局等が実施した大規模調査を参照にしたウェイティング
【後処理】因子分析によるSNS型自由記述回答データの分類
これらのテクニカルな内容に興味がある方は、各ステップの詳細をテクニカルレポートとしてまとめたものをZennに掲載していますので、ご覧ください。
次回について
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
今回のような調査は、今後も不定期で実施予定です。
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