石川紅奈「Kurena」
ジャズは夜の音楽だ、とスタン・ゲッツは言った。夜はダークで、憂いがあって、そしてあらゆる自由を孕んでいる。石川紅奈の声はまさしく夜の声だ。楽器のように音色豊かに響く声。自身が弾くウッドベースは、音楽に重みとリズムをもたらす。深まっていく夜に潜るには、これ以上ないくらいにぴったりな組み合わせだ。
ボーカリストとしての石川紅奈を聴きたいなら3曲目の「Bird Of Beauty 」や5曲目の「Off The Wall」もいいけど、夜に深く沈みたいなら4曲目の「Olea」がいい。「Olea」は彼女のオリジナル曲で、胸をつまらせるほど夜の音楽だ。唄はない。雨だれのようなスネアドラムと、耽美的なピアノ・ライン。そしてつま弾かれるウッドベースは心根の深くめがけてどっしりと降りてくる。追憶と喪失。それらが夜の音楽とともに表出しては、形には残らずに去っていく。とてもゆっくりと、そこにあった心象だけを証として残して。
そして、僕は「No One Knows」で濃縮された黒い孤独を最後の一絞りまで飲み干すようにして目を閉じる。
孤独という共鳴――そんな仄暗さを求めて夜の音楽を貪る個人的な時代は、いまも続いている。音楽にそんなものを求めてしまうこと自体が惨めで、物悲しく、いつまで経っても大人になれない自分自身を証明している。いつになったらその時代は終わるんだろう? いつまでこんなことを続けているんだ? ループする自問。胸に巣くう孤独という化け物。そいつが喜ぶ餌を、僕は常に探している。……それでも、きっと僕自身も救われているのだと信じたい。その音楽がもたらす孤独と、その温かさのおかげで、きっと僕は生きてこれたのだから。
久し振りにまた、自分自身の孤独を信じたくなったアルバムだった。