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台風の目がぶつかるとき:ASIBAとNOVAREの現在地

ASIBAと清水建設NOVAREは、2023年夏に遡るASIBAの立ち上げ期から、26のプロジェクトを擁するようになった現在に至るまで、さまざまな形での共創に取り組んできました。本対談ではそれぞれの担当者がどのような想いでこの挑戦に身を投じているのか、お互いへの期待や率直な意見も含めて、ASIBA 二瓶雄太氏と清水建設NOVARE 佐藤宏氏がざっくばらんにお話しします。


ASIBAとNOVAREの出会い、そして共創

二瓶:本日は、清水建設NOVAREのプロジェクトをリードされている佐藤宏さんにお話を伺います。佐藤さんは、ASIBAの担当者として初期の頃から伴走していただいています。まずは、NOVAREとASIBAの協働がどのように始まったのか、その経緯について伺いたいです。
佐藤:佐藤宏です。現在、清水建設でNOVAREのプロジェクト企画を担当しています。もともとは13年ほど構造設計をやっていたのですが、NOVAREが発足するタイミングで社内でプロジェクトメンバーの公募があり、新しいことに挑戦したいとちょうど思っていたこともあって、手を挙げて参加しました。

二瓶:佐藤さんについて周りの方に伺うと「やりたいことを自由にやっている」とみなさん口を揃えて言われますが、そのような性格は元々なんですか?それともNOVAREでの活動をきっかけに変わったんですか?
佐藤:元々そういう性格で、構造設計をやっていた頃も、「これをやりたい!」と自ら主張して実現してきたプロジェクトがいくつかあります。例えば芝浦一丁目の免震構造も、自分で言い出したことを貫くことで最終的に実現しました。清水建設は堅い会社だと思われがちですが、実際には新しいことへの挑戦を応援する社風があります。NOVAREもその一環として社内外の共創をテーマに掲げ、柔軟な発想とオープンなイノベーションを推進しています。
二瓶:実は昨年、私がASIBAを始めた際には、区民モニターのボランティア活動という全く関係のない場で清水建設の方と出会い、そこからNOVAREとの話が進んでいきました。清水建設がこんなに新しいことに積極的に取り組んでいるとは、当時は思ってもいませんでした。

寄せ書き事件に学ぶ、挑戦の姿勢

二瓶:挑戦といえば、佐藤さんとの思い出の中で一つ印象深いエピソードがありますよね(笑)。
佐藤:ああ、あれですね(笑)。実は、ASIBAの1期のカンファレンスの際に、みなさんにNOVAREの壁に寄せ書きを書いてもらいました。まっさらな壁が下地のまま残されていて、そこをアイデアボードのように使っていこうという設計意図だったと思うのですが、空間が綺麗すぎて誰かが汚さないと誰も使い始めないなと感じていました。そこで、その場で思い切って寄せ書きをお願いしたという経緯でした。ただ、まあ、蓋を開けてみればそのあとすぐ管理をされている方に怒られまして(笑)。今後は落書きしないように、とまで言われてしまいました。でも、やっぱり最初の一歩を踏み出すって、何かを変えるにはすごく重要なんです。怒られはしましたが、それで少し風穴が開いて、次の挑戦のための土壌を耕した部分もあるのかなと思っています。

二瓶:その話を聞いたとき、私も非常に共感しました。ASIBAも同じで、とりあえず行動してみることが大事なんです。最初は怖がっていても、実際にやってみると意外とうまくいくことが多いですし、その結果は良くも悪くも必ず次に繋がっていきます。インキュベーションの文脈に置き換えれば、あれこれと事業計画を頭の中で考えるよりも、とにかく当たって砕けろで、ヒアリングやピッチをぶつけていく方が最終的には遠くまで辿り着けると感じています
佐藤:そうですね。当たり前だと思われている枠を超えて挑戦する姿勢は本当に大事だと日々感じています。NOVAREもASIBAも、まだ前例のない未知の領域に足を踏み入れるという点では共通しています。新しいことに挑戦するには、勝手に壁を使ってしまうくらいの大胆さが必要だと思うんです。
二瓶:ASIBAのプロジェクトにおいても、最初からすべてが順調に進んだわけではありませんでした。特に最初の一年は、理想として描いた仕組みを実際にどうやって形にしていくかが大きな課題でした。しかし、社会実装と領域変革というASIBAが掲げる理念に共感していただいた企業や団体が次第に集まり、利害関係を超えて一歩ずつプロジェクトを進めていくことができました。
佐藤:その成長は、NOVAREでも感じていました。最初は「学生がやっているイベント」という認識が強かったのですが、回を重ねるごとに、ASIBAが持つ独自のネットワークや、社会に与えるインパクトが大きくなっているのが分かりました。特に、二年目にしてASIBA FESのような大規模イベントを開催できたことには担当者の僕自身驚きましたね。清水建設内でも「あの学生たちがここまでやるとは!」という声が上がりました。

二瓶:僕ですら最初はここまで大きなことができるとは思っていませんでした(笑)。ですが、挑戦し続けることで、少しずつ周りの共感とサポートをいただけるようになり、気づけば多くのプロジェクトを抱えるまでになりました。これは、ASIBAが提供する「オープンでフラットなプラットフォーム」が、ただの理想郷ではなく多くの企業や人々にとって実体のある魅力的な場となっている証だと思います。

「出島」から「台風の目」へ

二瓶:私が最初にNOVAREを訪れたときは、「出島」として本社からあえて少し離れた場所だからこそイノベーションを押し進められる、という認識でしたが、今では本社を巻き込みながら進めているんですね。その変化についてどう感じていますか?
佐藤:確かに、最初はNOVAREは「出島」的な存在として始まりましたが、今では本社を巻き込み、全社でイノベーションを推進する場として機能しています。そのために、社内外のプロジェクトが自然と集まる「台風の目」としての役割を果たしているんです。ASIBAもその「台風の目」の中核を担うプロジェクトの一つです。
二瓶:その「台風の目」という表現、まさにピッタリですね。NOVAREとASIBAを中心にしながら、さまざまなプロジェクトが「勝手に」巻き込まれていく様子が目に浮かびます。
佐藤:ええ、NOVAREの強みは、多様なプロジェクトが集まり、互いに刺激し合いながら成長していくことにあります。特にASIBAのような学生主体のプロジェクトは、既存の枠をあまり気にせず自由な発想で動くため、他のプロジェクトにも良い影響を与えています

二瓶:ASIBAが抱える今後の課題として、プロジェクトの進行におけるKPIやインセンティブをどのように設定していくかがあります。清水建設でも、イノベーションの推進において同様の課題があると思いますが、どのように対応しているのでしょうか?
佐藤:確かに、NOVAREでも同じように悩んでいます。いくら出島とはいえ、特に、社内で新しいプロジェクトを進める際には、KPIや利益といった具体的な成果が求められます。しかし、イノベーションの初期段階では、明確な利益をすぐに見出すことは難しいことが多いです。
二瓶:ASIBAも同様に、最初はかなり自由な発想で進めていたプロジェクトが、2年目、3年目になるにつれて、成果やKPIが求められるようになりました。どのように学生たちの自由な発想と現実的な目標を両立させていくか。社会にインパクトを与えるためにはそのバランス感覚が求められているのでしょう。

これからの共創に向けて

二瓶:最後に、NOVAREの見据えている未来を教えてください。
佐藤:NOVAREとしても、ASIBAとの協力を続けることで、より多くの企業やプロジェクトを巻き込みながら、未来を切り開いていきたいと考えています。ASIBAへのスポンサーは、単に学生の支援というだけでなく、イノベーションを生むための新たなエコシステム形成の仮説検証となります。正解のない道を、これからも共に挑戦を続けていきましょう。
二瓶:ASIBAのプロジェクトは、単なる実験の場ではなく、社会に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。スポンサーとして関わっていただくことで、その成長を支え、共に未来を創造する仲間になっていただければ嬉しいです


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佐藤宏
清水建設株式会社NOVARE Planning Office, Promotion Unit。2011年に清水建設株式会社に入社し、2023年よりNOVAREに配属。社外との共創を推進するための取組みを実施。産学連携の促進や、社外団体によるNOVARE施設利用のための整備を担当し、多様なパートナーシップを通じて新たな価値創造を目指している。

二瓶雄太
一般社団法人ASIBA代表理事。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程在学。大学で建築の解体に関する研究を行いながら、アカデミアと社会の橋渡しを目論み、建築学生向けのインキュベーションプログラムなどを実施。

 

編集・文:川北大洋(一般社団法人ASIBA)


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