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CryptoPunksの新ライセンス規約について

(文責:谷昌幸)

第1 はじめに

2022年8月16日、世界最古のNFTプロジェクトとされ、Bored Ape Yach Clubの開発元であるYuga Labsが2022年3月に知的財産権を取得したCryptoPunksに適用される新しいライセンス規約(以下「本規約」といいます。)が公表されました。
https://twitter.com/cryptopunksnfts/status/1559284220442320897?s=20&t=115AQxRLXK_megL1t5PqEQ

↓規約のPDFはこちら
https://licenseterms.cryptopunks.app/

世界で代表的なNFTプロジェクトのライセンス規約は、他のNFTプロジェクトにおいても参考になるものと考え、ご紹介させていただきます。

第2 概要

本規約は、CrytoPunk NFT(以下「本NFT」といいます。)の保有者とデラウェア州のCorporationであるYuga Labsとの間で締結されるものです。もっとも、OpenSeaやマーケットプレイスを介しないOTCでの売買(個人間の売買)によっても本NFTの売買は可能であり、厳密に言えば、そのような場合に、NFT購入者が本規約に同意していないと解される余地が全くないわけではないと考えます。ただし、そのようなNFT購入者は、自らに与えられたライセンスも主張できないことになるため、事実上問題が生じる余地はないと言えるかもしれません。

第3 具体的な規定の内容

以下、括弧内に付記したのは、本規約の条文番号です。

1.NFTの利用や著作権に関する規定

本NFTの知的財産権は、運営主体であるYuga Labsが保有し続け、本NFTの保有者に譲渡されません(1(b))。しかし、Yuga Labsは、自らが保有する場合を除き、本NFTホルダーの保有権(ownership)を奪取、凍結または変更する権利を有しないことが確認されています(1(a))。

  • 本NFTの保有者は、保有するNFTのアートに関して、全世界における(「universe-wide」と規定されています。)、ロイヤリティなしでサブライセンス可能な、複製、展示、二次的著作物の作成等についての独占的ライセンスが付与されています。非商業的利用だけでなく、商業的利用も含み、かつ、あらゆるメディアでの利用を含むと規定されています(2(a))。独占的ライセンスであるため、原則として各NFT保有者のみがNFTのアートを利用できることになります。この独占的ライセンスは、本NFTを保有している期間のみ与えられるものであり、本NFTを譲渡した後は、直ちに独占的ライセンスが終了します(4(b))。

  • 独占的ライセンスの例外として、CryptoPunksのコレクション全体のプロモーションや展示のために必要な権利が、個々の本NFT保有者からYuga Labsにライセンスバックされています(2(c))。

  • 各NFTの保有者は、独占的ライセンスが与えられている間に創作された二次的著作物(Derivative Work)についての権利を取得し、二次的著作物についての権利は本NFTの譲渡などにより独占的ライセンスが終了した後も二次的著作物の創作者に帰属します(1(c))。また、本NFTの保有者が、本NFTを保有している、すなわち独占的ライセンスが与えられている期間内に、当該NFTのアートを利用して作品を創作しかつ公表した場合には、本規約に従うことなどを条件に、独占的ライセンスが終了した後も利用し、それにより利益を得ることができると規定されています(ただし、新たな作品の創作は不可)(4(c))。具体例として、本NFTを保有している期間に創作されたデジタルシリーズについて、本NFTの第三者への譲渡後も上演し、それにより利益を得ることはできるが、新エピソードの制作については本NFTの新保有者の許可が必要であること、グッズについては本NFTの譲渡時点において存在し、かつ販売のオファーがなされている在庫を販売することはできるが、新たな在庫の制作や流通については本NFTの新保有者の許可が必要であることが規定されています(4(c))。

  • 本NFTの保有者は、独占的ライセンスにかかわらず、(i) ヘイトスピーチ(express hate)や、人種、宗教、性別、嗜好、障害などに対する攻撃(violence)を助長する、または(ii)法令に違反する態様でのアートの利用は禁じられています(2(b)iv、v)。このような運営の裁量の余地も残る(特に前者)利用の制限については反対意見もあり得るところですが、思想的な面を措けば、このような規定があることにより著名アーティストやメディア企業が本NFTを利用した創作に参加しやすくなり、CryptoPunks全体の経済的価値を守る方向に働くのではないかと思います。

2.商標権に関する規定

  • 「CryptoPunk」という呼称それ自体や「Yuga Labs」に関する商標は、Yuga Labsのみに帰属することが確認されています(2(b) ii)。

  • 本NFT保有者は、CryptoPunkのアートの実際の使用に基づいて自ら商標権を取得することが可能とされています(2(b) iii)。

3.その他の規定

  • 本NFTと独占的ライセンスを分離(decouple)して譲渡することは禁じられています(4(a))。

  • チェーンのフォークの際は、運営主体が選んだチェーン上のNFT保有者のみが正当なNFT保有者としてライセンスなどの権利を与えられると規定されています(13(a))。The Mergeの前に本規約の適用が開始されており、ETHWなどのフォークチェーンで本NFTを取得した者からの権利主張を封じるために必要な手当てがなされたと考えられます。ブロックチェーンのフォークの可能性は常にあり、一般的に有益な規定と考えられます。

  • 紛争解決については、米国仲裁協会(American Arbitration Association)の消費者仲裁規則によって解決されると規定されています。また、各国の法令が仲裁による紛争解決を許容しない場合等において、裁判所で紛争解決がなされる場合についても手当する規定が置かれています(前文、10)。

  • (反対意見もあり得るところ、契約により権利関係を規律しようとする以上やむを得ない措置とは考えますが、)NFT保有者は、成年であり契約締結が可能であることを保証する形となっています(5(a))。その他、本NFTの保有者は、法令および本規約の遵守、米国政府による制裁の対象国に所在していないことなどを保証すると規定されています(5)。

  • 本NFTは、「as is」での販売であること、イーサリアムブロックチェーン上で存在し、譲渡の記録がなされるものであること、ユーザーのパスワードの紛失、誤操作、ブロックチェーンやウォレットエラーなどによって本NFT保有者に生じた損害は填補されないことが免責事項(warranty disclaimers)として規定されています(6)。

  • その他、本NFT保有者によるリスクの引き受け(7)、本NFTによる補償(8)、責任の限定(9)について規定されています。責任の限定は、本NFTの保有者とYuga Labsの双方について、付随的損害、結果損害などを損害賠償の対象から除外することに加えて、損害賠償の累積額が100USドルに限定されています(9)。

第4 おわりに

本記事を作成するために本規約を検討してみて、運営側とNFTホルダーのニーズ・リスク分配のバランスへの配慮が見られ、かつ例示などにより関係者に分かりやすくする工夫も含めて細部まで作り込まれているとの印象を持ちました。そのため、CryptoPunksという世界を代表するNFTプロジェクトの規約というだけではなく、内容的にも意味のある規約と考えます。CC0など運営主体が著作権の行使を全て放棄するのもWeb3的な考えを貫徹する一つのモデルとは言えますが、そうではなく運営主体が知的財産権自体を保有して法令や良識に違反するような利用は制限しつつも、NFT保有者に商業利用を含むライセンスを与えて、NFTに基づく新たな創作(二次的著作物の創作)を促すモデルとして、広くNFTプロジェクトに参考になる事例であると考えます。

以上


執筆者

谷 昌幸
AsiaWise法律事務所 カウンセル
弁護士(日本)
<Career Summary>
司法修習終了後、西村あさひ法律事務所及びコーポレート法務のブティック法律事務所において、主にM&A、クロスボーダー法務の分野で研鑽を積んだあと、個人的に興味を持ってきたBlockchain/Web3やデータ/DX分野とクロスボーダー×法務の掛け合わせの分野で世界に貢献したいと考え、AsiaWise法律事務所に加入。
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