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「日韓映写技師ミーティング in 福岡」の始まりと、移動映写機(1)

2020 年 2 月、ソウルアートシネマの映写ワークショップに参加

韓国には、日本のようなアート系シアターが幾つか存在し、韓国シネマテーク協議会 KACT という連合体を組織しています。KACT が運営する映画館「ソウルアートシネマ」で行われた映写ワークショップに講師として参加したことから始まります。 映写室には 35 ミリ映写機が 2 台備わっていて、チェンジオーバー(切替)方式で映写が行われます。映写機自体も、常盤精機(トキワカンパニー)が製造した TSR 型、ランプハウスはウシオ電機が販売したもので、日本国内で良く見かける風景でした。リワインダー(フィルムの巻返し装置)が見慣れない機種だったことと、韓国の商用電圧に合わせるため電源トランスを使っていること以外はほぼ同じです。 フィルム上映を将来も続けるためには、韓国だけでは心許ない。ここはひとつ、日本の映写技師と交流してみようと発想された、ソウルアートシネマのディレクター、キム・ソンウク氏の大胆さと切実さに、少なからず感銘を受けました。お役に立てることがあるのなら、という気持ちと、どうしたものかという不安を一緒くたにして、機上の人になったのです。 宿泊先のテレビをつけると、映画『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー作品賞受賞と、コロナウィルスの感染者数の増加がひっきりなしに報道されていました。厳冬期には珍しく温暖な日が続いていた、その頃ソウルの、映画館の映写室の中では、私と韓国の映写技師さん 2 人に通訳のホンさんが加わって、それはそれは熱くて親密な映写ワークショップが行われたのでした。

映写機を韓国へ送る?

帰国後しばらく経った頃に、出張上映を専門にしていた知り合いの業者さんから、廃業を決めたので、ついては移動映写機(ポータブルな 35 ミリ映写機と、その一式)を処分したいので引き取りに来ないかと連絡がありました。出張上映とは、学校の体育館や広場の野外上映会など、 上映する設備の無い場所にポータブル映写機を持ち込んで映画を上映していた、お仕事です。 韓国でも、かつては日本と同じように出張上映を手掛けた映写技師さんが存在していたでしょう。日本よりも早く消えてしまったのだろうと思います。 出張上映が出来なくなると、映写設備を備えた場所でしかフィルムを観れなくなりますよね。 韓国にも多くの映画祭がありますが、フィルムで上映するプログラムを実施出来る場合は限られます。デジタル化により再発見される幸運な作品はありますが、いっぽうでフィルムの状態でしか存在しない作品も多くあります。 日本で使われることが無くなっても、映写機は海を渡って移動できるかもしれない、そんな妄想が膨らみ始めます。私は、古い映写機をそこそこな状態に整えて、再生させる自信があります。