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「日韓映写技師ミーティング in 福岡」参加者レポート

左側のメモを取っているのが南さん。
昨年の移動映写ワークショップにも参加していただきました。


昨年開催した「日韓映写技師ミーティングin 福岡」のシンポジウムでは、日本と韓国それぞれの国におけるフィルム上映の現状について、二つの講演を行いました。韓国の現状についてキム・ソンウク氏が情熱的に発表し、続いて日本の現状を神田麻美氏がとても冷静にまとめました。南俊輔さん(日本・東京)に、キム・ソンウクさんの講演を聞いた感想を聞きました。
※note掲載に当たり、見出しの挿入など編集を加えています。


シネマテーク・ソウルアートシネマのキム・ソンウク氏のプレゼンテーションで、韓国のフィルム上映環境の現状とフィルム上映を継続するための取り組みが紹介された。

90%以上あったフィルム上映館が、2013年には1.2%に

韓国では過去10年間で多くの映画館がフィルムからDCP(=デジタルシネマパッケージ)に切り替わった。映画館で上映された映画の総数のうちフィルムで上映された映画の割合は2008年に93.9%あったが、2013年には1.2%にまで減少した。この変化によって映画館での業務を通じて、先輩映写技師から後輩へのフィルム映写技術の継承が難しくなった。

映写技師免許制度からフィルム映写の項目が消えてしまう

また、映写技師免許制度にも変化があった。日本では映写技師の免許制度が1962年に廃止され、現在は資格を持たなくても映写が可能だが、韓国では今でも映写技能士か映写産業技師の資格を持つ者でなければ映写ができない。その資格試験には35ミリフィルム映写機の操作が含まれており、試験がフィルム映写を学ぶ一つのきっかけになっていた。しかし、2017年からその項目が試験から除外されたため、フィルム映写機の操作方法がわからなくても免許の取得ができるように変わった。

映画フィルムへの誤解

映画フィルムに関する誤解もフィルム上映の環境を苦しめていると推測される。2013年に映画振興委員会の地下にあったフィルム現像所が閉鎖されたことを報じる新聞に「映画職人の時代は終わった」と掲載された。また、就職活動サイトにある映写技能士のページには「フィルムで映画を上映するところがなくなったので、消えゆく人材」と紹介されている。こうした過度な表現や偏った認識を無くし、正しい理解を広めることがフィルム上映に携わる人材を育てていくうえで必要である。

フィルム文化を次世代へ

その中で、シネマテーク・ソウルアートシネマなど、いくつかの映画館はフィルム上映を続けており、フィルム映写ワークショップを実施して映写技師の育成に努めている。他にも、各地の映画祭や映画館で具体的なフィルム上映の例が紹介され、フィルム文化を次世代につなぐ希望を持つことができた。

フィルム上映を続けるために映写技師ができること

最後に、キム氏のプレゼンテーションで特に心に残る言葉がある。「寡黙で慎重に仕事をする映写技師は、消える時も静かだ」という詩的な言葉だ。フィルム上映を続けるためには、フィルムを一番よく知る映写技師がその魅力を語ることが大切で説得力があると考えられる。実際、シンポジウム後半の映写技師座談会では、日本と韓国の映写技師の生の声を興味深く聞くことができて、あらためてフィルム上映の魅力について認識ができた。

執筆者紹介
南俊輔氏は美術作家として、フィルム映写機などの映像機材や映写技師による映写の工程など、映画周辺の環境に着目した活動をされています(本人の略歴より抜粋)。
https://www.shunsukeminami.com