シンポジウムで語られた「映写技師資格」について調べたこと
小会代表・石井義人による、映写技師免許のお話です。今や日本で映写技師になるのに試験も資格も要らないけれど、韓国の映写技師は今でもとても難しい試験を受けて、映写技師の資格を得るそうです。
シンポジウム「日韓映写技師ミーティング~映写技師と言う仕事」の発言の中で、韓国の映写技師資格に触れる場面がありました。
韓国では、映写技能士(Craftsman Projection、一般的な映写技師の免許)と、映写産業技士(Industrial Engineer Projection、技術的に上位な資格)、2つの資格制度が今でも存続しているそうです。
福岡のイベント後も、韓国の映写技師とやり取りを続けています。彼らとの関係の中で、この資格制度について私が知った限りを記しておこうと思います。
何の役に立つかは分からないけれど、隣国の同士友人たちへの敬愛をこめて。
映画およびビデオの振興に関する法律
영화 및 비디오물의 진흥에 관한 법률
法律では”映画上映館経営者は映写関連国家技術資格を取得した者に、その映画を上映させなければならない”こと、”規定に違反して映写関連国家技術資格を取得していない者に映画を上映させた者には、1千万ウォン以下の過料を賦課する”ことなどが規定されています。
小型映画(16ミリ以下のフィルム、解像度がフルHD未満のデジタル)は除外されていて、35ミリフィルムとDCP、つまり劇場公開用の上映フォーマットを対象にしています。誤解が無いように付記しますと、韓国で16ミリ上映が行われていなかったり、映写技師が16ミリ映写機を扱えないわけではなく、単に法律に規定されていないだけのことです。
いっぽう、この法律が必ずしも厳守されているとは言えない実態もあると聞きました。シネコンでは、スクリーン数に見合った映写技師(有資格者)を配置せず、不足分をアルバイトで埋めている例もあるのではないかとも言われます。また、実際に過料が課されたケースは一度も無いらしく、この法律が果たして実効性があるのかどうか、疑問が指摘されることもあるようです。もちろん、法である限り無視することはできないので、グレーゾーンに染まった辺りが実際のようです。
映写国家技術資格検定
영사국가기술자격검정
映写技師の試験は現在も年に一回ていど行われています。KOFIC韓国映画振興委員会が試験を実施していて、専用ウェブサイトから、試験日程の確認、オンライン受付、合格者の発表、資格証の申請(郵送)の手続きができます。2024年度は、映写技能士のペーパー試験が3月、実技試験が5月にありました。映写産業技士は、ペーパー試験が9月、実技試験は11月に行われる予定になっています。
KOFICの資格試験専用サイトでは、いわゆる過去問も参考できます。もちろん、今はフィルム科目は試験から無くなっているので、光や音に関する基本的な物理学と、デジタルシネマ上映システム(デジタルプロジェクターとシネマサーバーに劇場オートメーションを加えたネットワークを構成する映画上映機材)の操作に関することがほとんどです。ご存じのように、デジタルシネマの上映は、事前にプレイリストを組んでおいて、そのタイムスケジュールにより自動実行することが可能です。映写技師は不要になった今でも試験を続ける理由は、新しく着任する劇場マネージャーへ資格を与える必要があるからだそうです。韓国の現状から、映写技師の資格制度はフィルム上映を支える意味を失っていることを、あらためて気づきます。
西暦2000年前後は、日本各地でシネマコンプレックスが作られ、映写技師という職業は大きく変化しました。長く映写室に勤務していた職人だけでは足らず、若い人材が次々に採用されました。韓国も全く同様で、映写技師の試験が年に4回も実施されていたそうです。
将来もフィルム上映環境を維持しようとした時に、映写技師の確保は欠かせない問題になります。韓国で映画館のデジタル化が進む過程では、それまで働いていた映写技師たちが解雇され、民間の予備校で学んだ新しい人材に代替されることがありました。韓国の経験から、雇用を保証することや人材を育てることの難しさを学ぶことができるかもしれません。
シンポジウムの中で、ソウルアートシネマの映写技師パク・サンヒさんは、2つの有資格者であることを自慢ではなく控えめに、そして(資格を取るに至った経緯と努力を自分の誇りとして)発言しました。“試験の内容はレンズの構造から映写機の修理、映写の技術等々、多岐に渡り大変でした”、そしてニューヨーク・タイムズの記事を引き合いにしながら“ニューヨークでは今もまだフィルム上映が好まれていて、映写技師の時給も高い。残業すれば手当も付いてくる。いつか、フィルムで映画を観ることが一番ホットな文化になる、そんな希望を持っていきたい”。