アジアと芸術 digital

鳳書院のシリーズ「アジアと芸術」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人文一般もカバーしつつ、まだ日本では広く知られていない各国の作家やアーティストなどにもスポットを当てていきます。

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鳳書院のシリーズ「アジアと芸術」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人文一般もカバーしつつ、まだ日本では広く知られていない各国の作家やアーティストなどにもスポットを当てていきます。

マガジン

  • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸

    日本人として中国に長く暮らし、書や篆刻の文化、中国古美術品の世界にも造詣が深い和田廣幸氏。書と篆刻の魅力、日中の文化比較、書画作品の批評などを独自の視点で綴る。

  • 「見えない日常」木戸孝子

    家族の親密な関係性を収めたシリーズ「Skinship」が、このところ欧米の数々の写真コンテストで高い評価を受けている写真家の木戸孝子氏。同作のテーマに至るきっかけとなったのは、彼女がニューヨークでの生活で思いがけず遭遇した〝逮捕〟だったーー。

  • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵

    写真家・宍戸清孝とライター・菅井理恵による写真エッセー「法華経の風景」です。日本各地の法華経にまつわる土地を撮影し、エッセーを添えます。

  • 「地に墜ちた衛星」劉子超

    中国のノンフィクション作家・劉子超による中央アジア旅行記『失落的卫星』(2020年)の翻訳です。同作は中国で豆瓣2020年ノンフィクション部門第1位に輝き、第6回単向街書店文学賞(年間青年作家部門)も受賞しました。

最近の記事

展覧会「陳威廷個展 彼岸Paramita」高雄市立美術館/展覧会レビュー・南部健人

此岸と彼岸、台湾と日本  ひんやりとした秋の気配が漂い始めた東京から飛行機で約4時間。南台湾を代表する港湾都市・高雄は、過ごしやすい穏やかな気候に包まれていた。市内には、旧高雄市役所(現高雄市立歴史博物館)をはじめ、日本統治時代に建てられた建築物がいくつも残っている。店で交わされる人々の会話に耳を傾けると、中国語(台湾華語)だけでなく、福建省南部の閩南語がルーツの台湾語を話す人が多いことに気づかされる。    筆者の宿泊した高雄駅近くには、南華路というインドネシアやベトナム

    • 湖畔篆刻閑話 #9「三人行けば、必ず我が師有り」和田廣幸

      ヘッダー画像:戦国時代の古璽印で鈐印を行う (運甓齋蔵)  誰しもが諳んじることのできる『論語』の冒頭の一節に、「朋有り遠方より来る、亦た楽しからずや。(有朋自遠方来。不亦楽乎。)」(学而編)という語句があります。国内もそうですが、更に海を隔てた海外の友人が、わざわざ琵琶湖のほとりにある我が家に訪ねに来てくれることは、私にとって何よりも嬉しく心待ちでならないことです。  中国に長く住んでいたからなのか、それとも世界的な観光地である〝京都〟に近いからなのでしょうか、とりわ

      • 書評『台湾の妖怪図鑑』(何敬尭著/魚儂著/出雲阿里訳)文・菅井理恵

        ※ 「この世に妖怪はいない」と心底、信じ切っている人がいるとしたら、随分、もったいないことをしているなと思う。  妖怪とは何だろう。ある辞書を引くと「日常の経験や理解を超えた不思議な存在や現象」であり、「ばけもの」だと書いてある。では、おとなりの国の「ばけもの」は、どんな姿でどんな暮らしをしているのだろう――。  そんな疑問に答えてくれるのが、台湾の小説家で妖怪研究家である何敬尭さんの最新作『台湾の妖怪図鑑』(原書房)。妖怪伝説にゆかりのある土地を500カ所訪れ、500

        • 展覧会「法華経絵巻と千年の祈り」中之島香雪美術館/美術館ルポ・東晋平

          ヘッダー画像:重要文化財《法華経絵巻》(部分) 香雪美術館蔵 朝日新聞創業者のコレクション  朝日新聞の創業にかかわった村山龍平は、実業界や政界で活躍しただけでなく、美術品の収集、美術雑誌『國華』の経営などに尽力したことでも知られる。  神戸市東灘区にある旧邸宅は重要文化財に指定され、1973年に村山の雅号「香雪」を冠した美術館として開館。村山のコレクションを保存・公開してきた。  開館45周年となる2018年、朝日新聞大阪本社のある中之島フェスティバルシティ(大阪市北区

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        • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸
          9本
        • 「見えない日常」木戸孝子
          14本
        • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵
          12本
        • 「地に墜ちた衛星」劉子超
          20本

        記事

          湖畔篆刻閑話 #8「蒐集・鑑蔵・研究・創作」和田廣幸

          ヘッダー画像:「中国古代璽印研究国際シンポジウム」にて(2024年9月)  今年の夏は気象庁が1898年に統計を取りはじめて以来、昨年に続き最も暑い夏とのことでした。なんと35℃を超す猛暑日が日本各地で史上最多を記録し、10月に入った今も夏日が続いています。そんなまだまだ厳しい残暑が続く先月の9月末、上海の復旦大学・出土文献與古文字研究センターの主催による『方寸萬象―中国古代璽印研究国際シンポジウム』に参加してまいりました。  この国際会議はコロナ前の2019年4月、岩手

          湖畔篆刻閑話 #8「蒐集・鑑蔵・研究・創作」和田廣幸

          書評『張家の才女たち』(スーザン・マン著/五味知子・梁雯訳)文・菅井理恵

          ※  史実と物語を織り交ぜて書かれた『張家の才女たち』の主人公は、中国最後の統一王朝である清に生きた3世代の女性たち。彼女たちの人生は、大国が衰退に向かうターニングポイントと重なっている。  1世代目の湯瑤卿は、栄華を極めた乾隆帝の治世に生まれた閨秀(学問・芸術などに優れた女性)。2世代目の張䌌英は、瑤卿の長女で詩人。䌌英が50歳の頃、清はアヘン戦争でイギリスに敗北している。3世代目の王采蘋は、瑤卿の孫。太平天国の乱によって張家は散り散りになり、寡婦となった采蘋は家庭教師

          書評『張家の才女たち』(スーザン・マン著/五味知子・梁雯訳)文・菅井理恵

          新刊『傅益瑶作品集 一茶と芭蕉』ご予約受付中!(「アジアと芸術」第2弾)

          (文・アジアと芸術digital編集部)  2024年10月31日に『傅益瑶作品集 一茶と芭蕉』(鳳書院)が刊行されます。  本書は水墨画家・傅益瑶さんが、江戸時代に活躍した小林一茶と松尾芭蕉の俳句を題材にして描いた情景画計67点に、ご本人のコメントを添えた作品集となっています。本年1月に発刊された『水墨の詩』に次いで、「アジアと芸術」から第2弾の刊行となります。 瑞々しい解釈で描く一茶と芭蕉  本書の最大の見どころは、小林一茶や松尾芭蕉の俳句を、従来の解釈を踏まえな

          新刊『傅益瑶作品集 一茶と芭蕉』ご予約受付中!(「アジアと芸術」第2弾)

          インタビュー「食文化を通して見る中国と台湾」川浩二(中国文学者、翻訳者)

          聞き手:南部健人 写真:前田秀樹、かわえみ 『水滸伝』を読んで気づいたこと ―― 川先生が中国文学を研究されるようになったきっかけは何だったのでしょうか。 川浩二 私は1976年生まれなのですが、中国関連のひっかかりが多い世代でもあるんです。子どもの頃にNHKで『人形劇 三国志』が放送されていたり、堺正章さんが主演のドラマ『西遊記』が再放送されたりしていて、中国の物語自体に自然と親しみを覚えるような環境でした。また、世間では香港ブームが起きていて、「飲茶」という言葉が定

          インタビュー「食文化を通して見る中国と台湾」川浩二(中国文学者、翻訳者)

          おわら風の盆――傅益瑶「日本の祭りシリーズ」 取材の現場から

          風神鎮魂と豊作の祈り 「祭りの資料を見れば、それらしい絵を描くことはできる。ただ、実際に現地に足を運んで祭りを体感することで、絵に手触りや息づかいが宿るのよ」  北陸新幹線に乗って富山へと向かう道中、傅益瑶さんは私たちにそう語った。これまで日本の祭礼や仏教など、多様な題材を水墨画で描いてきた傅さんが、制作前に丹念な取材を行う理由がここに詰まっている。  正午近くに富山駅で新幹線を降り、高山本線の二両編成の電車に乗り換えて、ほどなく目的地の越中八尾駅に到着した。電車から降

          おわら風の盆――傅益瑶「日本の祭りシリーズ」 取材の現場から

          書評『北朝鮮に出勤します』(キム・ミンジュ著/岡裕美訳)文・菅井理恵

          ※  朝鮮半島の軍事境界線付近の〝北側〟に、南北経済協力事業の目玉として開城工業団地が建設されたことは知っていた。けれど、そこで働く人たちについて考えたことはなかった。  筆者のキム・ミンジュさんは、団地内の食堂を運営する韓国企業に就職し、2015年の春から約1年間、栄養士として働いていた。平日は軍事境界線を越えて北朝鮮で働き、週末は韓国で過ごす生活。『北朝鮮に出勤します』は、その日々のなかで出会った、北の普通の人々との、特別な日常を綴ったエッセーだ。  ミンジュさんの

          書評『北朝鮮に出勤します』(キム・ミンジュ著/岡裕美訳)文・菅井理恵

          湖畔篆刻閑話 #7「源遠流長―甲骨文字から思うこと」和田廣幸

            「低头族」(dītóu zú:低頭族)という言葉がしきりに中国のメディアに取り上げられるようになったのは、かれこれ10年以上前のことでしょうか。    まさに読んで字の如く、「頭を垂れてスマホの画面に見入る人々」のことを指す中国語の新語でした。スマホの急速な普及とともに、今では中国の若者だけでなく、世界中どこの国でも老若男女を問わずこの「低头族」で溢れていると言えそうです。  スマホをのぞき込むこうした光景は、今や日常の一部となりつつあります。以前の日本では朝の通勤時間

          湖畔篆刻閑話 #7「源遠流長―甲骨文字から思うこと」和田廣幸

          見えない日常 #14=完 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 13〉はこちら Chapter 14  家に帰った日から、毎日12時間以上眠った。ひどく疲れていて、お昼くらいまで起きられなかった。ひとりで寝るのが怖くて、お母さんの布団の横に自分の布団を並べて寝た。  ライカーズアイランドから出た後、定期検査に行った婦人科の先生から「日本に帰ったら必ずもう一度検査に行って」と念を押されていた。病院に行ったら、子宮頸がんになりかけていた。「数値が次に進んだら手術」と言われた。この時、「罪を認めて条件付き釈放で日本に

          見えない日常 #14=完 木戸孝子(写真家)

          書評『インドの台所』小林真樹著/文・菅井理恵

          ※  台所には独特の魅力がある。「男子厨房に入らず」という言葉が表すように、ひと昔前の日本では、厨房=台所は〝男子たるもの〟が立ち入るべきではない女性の城で、台所にはどことなく私的な雰囲気が漂っていた。  祖母の台所には焼酎漬けの瓶がたくさん置いてあった。アルコールでゆがむ液のなかで、梅や山ブドウ、オトギリソウやマムシなどが何年もの間、漂っている。清潔だけれど年季の入った床に座り込み、瓶が並ぶ棚にもたれて曇りガラスを通る光をぼんやり見ていると、なぜか心地よく、ほっとしたも

          書評『インドの台所』小林真樹著/文・菅井理恵

          「“おいしい”本を心ゆくまで――台湾珍味文學展」台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター/文・南部健人

          食に宿る土地や個人の記憶  筆者が北京に留学していた頃、中国各地の学生はもちろん、いわゆる港澳台(香港、マカオ、台湾の総称)からの学生や、マレーシアやシンガポールなど東南アジアで生まれ育った中華系の学生など、さまざまな地域の華人と話をすることがあった。  彼らとは〝中国語〟を使ってコミュニケーションを取るのだが、地域によって発音の癖があったり、同じ意味の言葉でも異なる単語が用いられたりしていて、言葉は環境の影響を受けて多様に変化していくのだと興味深く思ったものだった。

          「“おいしい”本を心ゆくまで――台湾珍味文學展」台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター/文・南部健人

          湖畔篆刻閑話 #6「伝統こそ最先端」和田廣幸

          ヘッダー画像:蝴蝶夢 2022年 (左から印稿、印面、印影)  私の住む琵琶湖の西岸には、南北に走る比良山系の山並みが続いています。標高1214mの最高峰である武奈ヶ岳をはじめ、1000mを超える峰々が連なり、この季節は琵琶湖でのウォータースポーツや湖水浴を楽しむ人々の姿とともに、夏山を楽しむ多くの登山者の姿も目にします。  8月に入ると、1週間ほどで暦の上では「立秋」を迎えます。地球温暖化の影響で、まだまだ厳しい35度超えの猛暑日が続くと思いますが、なぜだか立秋と聞いた

          湖畔篆刻閑話 #6「伝統こそ最先端」和田廣幸

          見えない日常 #13 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 12〉はこちら Chapter 13 「国境がなかったら、移民局のジェイルなんて存在しないのにね」――私がそう言うと、マーバは「そんなこと考えたこともなかったけど、その通りだよ。そんな世界だったら素晴らしいね」と答えた。マーバは、トリニダード・トバゴ出身。優しい目をした、長髪のドレッドヘアーがかっこいい黒人のおばちゃんだ。ブルックリンに35年も住んでいた。  彼女いわく、無実の罪でドラッグ所持の罪状を認める羽目になったそうだ。ライカーズアイランドに

          見えない日常 #13 木戸孝子(写真家)