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アジアビジネス入門60「韓国のカ・イ・カ・ンと若者の生きづらさ」@日本型グローバルを考える(2)

■キムチの味と韓国語「シオナダ」

 小雨が降りしきるソウル市庁近くの目抜き通りはデモ隊の流れを警察の大型車両が取り囲んでいた。「看護師1人に患者5人の医療体制に改善を」とデモ隊の大音響が鳴り響く。

 蒸し蒸しする梅雨模様の中、デモがひと段落した後、市庁エリアの韓国料理店に入り、キムチを食べると在日韓国人の知り合いが「アー、シオナダ」とホッとした表情で言った。

 韓国語「シオナダ」の意味を聞いたところ、昔、薬師丸ひろ子が映画「セーラー服と機関銃」でつぶやいた名台詞「カ・イ・カ・ン」に近いという。辛く熱いスープを飲んでも「シオナダ」、サウナで汗を流しても「シオナダ」である。スカッとする、さっぱりするのが「シオナダ」のニュアンスだ。

 だから、日本の韓国語のテキストに出てくる「キムチは辛いけど、美味しい」という例文では、「シオナダ」のニュアンスは伝わらず、おかしいという。

日本を抜く平均賃金と<生きづらさ>の背景

 韓国は一人あたりの名目・実質GDPで日本を抜いた。実質平均賃金でも韓国の方が日本よりも高い。

 韓国社会はKホップや韓流ドラマなどで隆盛を極めるが、若者にとって快感とは程遠い<生きづらさ>があると言われる。格差の広がりに、都市部では住宅費の高騰が拍車をかける。日本以上に競争を強いられるストレス社会だ。

 ポン・ジュノ監督の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」は、半地下住宅に住む完全失業中のキム一家が、大豪邸で暮らす一家に寄生する悲喜交々(ひきこもごも)を描くことで貧困や格差を問いかけた。

 「『日本に追い付き追い越せ』が合い言葉だった時代はとうに過ぎ、むしろ日本経済の『失われた30年』が低成長の続く韓国経済の反面教師になっている」(峯岸博著「日韓の決断」)

世界最低の出生率と将来の「国の形」

 確かに、韓国の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子供数)は0・81で日本の1•30、中国の1・16、台湾の1・11よりも低く世界で最低水準だ。日本でも予測されている人口減少はなお深刻だ。

 こうした中、ソウルで懇談した韓国ウォッチャーの特派員の言葉が印象に残る。
 「いずれ韓国は国の形をガラッと変えるだろう。この国は生きるためなら何でもするし、耐えることができる」。

 韓国は国内の市場規模が小さいためKポップや映画・ドラマなど文化コンテンツをはじめ常に世界を意識した展開を図ってきた。一方、日本はそこそこの国内市場があるためグローバルに舵が切れないまま「失われた30年」に陥った。

 人口減少は避けることができない現実である。韓国を訪れ、国の形のグランドデザインを描いて大胆に変えなければ生き残れない時代がそこまできていることを実感した。今や韓国は日本型グローバルを考えるうえでの先行指標のように思える。

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