Withコロナ時代のアジアビジネス入門㉘「三菱商事とアリストテレス<人を説得する為の3要素>」@東京逍遙塾
社長の新年挨拶で「信頼、共感、論理」の3要素に言及
人と人の接触を減らさなければいけないWithコロナ時代、オンラインであれオフラインであれ、ビジネスの心得はどういうものなのか――。三菱商事の垣内威彦社長は1月4日の念頭挨拶で、アリストテレスの言説を引用し、信頼、共感、論理の「人を説得する為の3要素」が必要であると述べました。「2400年続いている人間の極めて本質的なコミュニケーションの要諦、永遠に不滅の真理と言えます」と結んだ垣内社長の挨拶を紹介してくれたのは、アリストテレス政治哲学を学ぶ東京逍遙塾の荒木勝塾長(岡山大学名誉教授)のオンライン勉強会でした。
企業リーダーは地域、国家、環境保全に責任
荒木塾長は<カンパニアー=パンを共にする者>の共通善の実現の場である企業のリーダーは、資本提供者の利益保全・拡大ばかりでなく、地域、国家、環境保全に責任を負うことによって説得力を持つことができると教えてくれました。
垣内社長は挨拶で三菱商事として重視することについて(1)地政学リスク(2)脱炭素の奔流(3)DX(Digital Transformation)とEX(Energy Transformation)――の3つのテーマをあげました。最後に社員に向けて仕事を推進するにあたり、自分の話を相手に理解してもらう心構えを次のように言及しました。
<その話の内容が論理的であることが大前提です。しかし論理的なだけでは相手はついて来てくれません。一番大事なことは「信頼」です。相手からの「信頼」を得て初めて聞く耳を持って貰えるからです。その上で、情熱を持って「共感」を得ることで、漸く理解し合えたことになります。これは古代ギリシャの紀元前4世紀に活躍した哲学者アリストテレスの、「人を説得する為の3要素」です。敢えて重要な順でいうと、信頼、共感、論理という事になります>
国家指導者の演説に込められる古典の意味
東京逍遙塾では荒木塾長が指導者(リーダー)の役割の変化、とくに国家と指導的経営者、時代の危機の様相などをトランプ米大統領、バイデン次期大統領、メルケル独首相、習近平・中国国家主席らの演説など今日的なトピックをテーマにしながらアリストテレス政治哲学(古典)を紐解いて深めることを目的にしています。
荒木塾長は「人を説得する為の3要素」はアリストテレスの「弁論術」(修辞学)の根幹をなすもので、説得の3段階の問題(1)論理、ロジカル・シンキング(2)共感、コンパッション(3)心の傾き(エートス)への信頼・倫理、国家的=市民的エートスの問題、その帰結としての相互信頼である――と説明しました。
AIの時代こそ「理数的素養よりも政治哲学・倫理学・対話術が根幹」
さらに、荒木塾長は今日のビジネスの潮流になっており、垣内社長も挨拶で取り上げたDXやEX、そしてAIについて、安宅和人著「シン・ニホン― AI×データ時代における日本の再生と人材育成」を例に「AI・ビッグデータの時代が要請するリベラル・アーツの根幹は、理数的素養よりも『修辞学』に込められた政治哲学・倫理学・対話術である」との見解を示しています。
ミャンマーとの人材交流にも尽力
荒木塾長はアジアビジネスと無縁ではありません。2016年3月に発足したミャンマー人材育成支援産学官連携ぷらっとフォームの共同代表(当時、国立六大学国際連携機構機構長、岡山大学理事・副学長=社会貢献・国際担当)であり、もう一人の共同代表だった三菱商事の渡邉泰明氏(現・同社ヤンゴン駐在事務所長)とともにミャンマーとの人材交流などに尽力しました。
コロナ感染をはじめ、先が読めない時代においてアリストテレス政治哲学のような<永遠に不滅の真理>がいっそう大切になると考えています。
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