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オホーツク海 湧別漁業私史~清宮一雄の「覚書」から~

目次

 はじめに
  清宮克良「覚書に見るヘミングウェイのリアル」
 第1章 オホーツク海と漁師
  清宮一雄 覚書「ヤリッパセ」
  清宮一雄 覚書「父の死」
  清宮克良 コラム「室蘭工業大学『漁業関連方言語彙の比較調査』」
 第2章 源流
  清宮一雄 覚書「茨城県大野村角折」
  清宮一雄 覚書「千島国択捉島」
  清宮一雄 覚書「湧別浜」
  清宮一雄 覚書「曽祖父 祐次郎」
  清宮一雄 覚書「悪夢の機雷爆発」
  清宮一雄 覚書「叔父の戦死」
  清宮克良 コラム「択捉島水産会と千島歯舞諸島居住者連盟」
 第3章 前浜の風景
  清宮一雄 覚書「春ニシン」
  清宮一雄 覚書「浜の四季」
  清宮一雄 覚書「漁師の風習」
  清宮克良 コラム「日本海事史学会と和船の研究」
 第4章 インタビュー ホタテ地まき漁業黎明期
  阿部俊彦湧別漁協組合長「ホタテ放流と漁業調整」
  刈田智之湧別町長「浅野謙吉さんとホタテの四輪採制」
 第5章 漁家婦人
  清宮良子「サロマ湖風物詩 やまびこ」
  清宮良子「婦人部全戸加入を実践して」
 第6章 解説
  中島一之湧別町ふるさと館JRY館長「覚書に寄せて」
 あとがき
  清宮克良「私史を引き継いだ親族に感謝を込めて」

◎はじめに

 清宮克良 「覚書に見るヘミングウェイのリアル」
 『老人と海』は20世紀の米国の作家アーネスト・ヘミングウェイの海洋小説である。ヘミングウェイは1953年にピューリッツアー賞、1954年にノーベル文学賞を受賞した大家である。
 84日間、一匹も取れない日々が続いていた老漁師が、小舟でひとり漁に出て巨大なカジキと遭遇する。死闘の末、カジキを仕留めるが、その後もカジキを狙うサメとの戦いが続く。
 「人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない」老人は言った。「叩きつぶされることはあっても、負けやしない」(『老人と海』、高見浩訳・新潮社文庫、109ページ)
 老漁師の姿を通して、海を相手に懸命に生きる人間の力強さが描かれていた。やはり漁師は自然の脅威と相対して危険が伴う。
 私のふるさと、北海道のオホーツク海は豊かな海の幸を与えてくれるが、その分、厳しい自然を相手にしなければならない。そう思いながら、父、清宮一雄が書き残した「覚書」に目を通すと、「ヤリッパセ」というタイトルの短い文章に、海に生きる漁師の切羽詰まる瞬間が描かれていたのでハッとした。父によると、「ヤリッパセ」の意味は、遭難しそうになった時、最後の手段として海岸の砂地などに乗り上げることであるという。
 オホーツク海に面する湧別町の漁業は今でこそ、ホタテの地まき漁業のおかげで豊かさの象徴になっているが、その豊かさにたどり着くまでには苦難の歴史を積み重ねてきた。
 北の海に生きる漁師の原点は常に自然の厳しさと向かい合うことである。
「人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない」。
 湧別漁業私史は、清宮一雄の「覚書」であるとともに、海に生活の糧を求める全ての漁師の生き様にも共通するとの思いを込めて記録に残すこととした。

 「覚書」を読み解くために清宮一雄の略歴と清宮家の家系図を記す。

 清宮一雄(せいみや・かずお)
 1936年(昭和10年)9月12日、清宮茂雄とチャウの長男(一人息子)として北海道湧別町前浜で生まれる。湧別国民学校、湧別中学を経て、遠軽高校を卒業。小林良子と結婚、母チャウの実家のある茨城県桜川村浮島(現・稲敷市)で食品駄菓子「北海屋」を開業し、自身は同村の古渡(ふっと)農協に勤務。その後上京し、親戚が経営する東京・銀座の東和電気工業に勤務。昭和37年、湧別町の実家に戻り、父の茂雄とともに漁に出る。昭和41年、茂雄より漁業権を継承する。

 清宮家の家系図
 茂左衛門 ―(長男)―(長女)―(長男)― (長男)― (長男)
 (長女)  祐次郎   みか   茂雄    一雄    克良 
  せん       石塚伴助  妻チャウ  妻良子   妻普美代     
 (三男)                        (長女)
  兼吉                          美智子
                             加藤雅彦
※清宮みかと伴助には、茂雄を筆頭に、(楠木)イシ、(杉山)みつ、武、(小玉)喜代子、祐輔、(門屋)和子、昇の子供がいて成人まで育った。昇の長男・隆雄、イシの二男・政男は湧別町に住んでいる。
  

1972年(昭和47年)ごろ、清宮一雄がカレイ刺し網に一人で出漁、揚網中に大型のサメが網にからんで悪戦苦闘するが船に上げれず、サメの尻尾だけ切って帰港した。

                        

◎第1章 オホーツク海と漁師

清宮一雄 覚書「ヤリッパセ」
 

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